思い出さなければよかったのに

「これなら大浴場に行かなくてもここで済んじゃうな。イチャつき放題じゃん」
「ふふっ、イチャつき放題……雄大スケベだね」
「なんだよ、イチャつくだろ?」
「イチャつくよ……三年分」

 一瞬気まずい沈黙が落ちて……湯気の立ちのぼるガラスの部屋の内側で、俺は彩乃の細い身体を勢いよく抱きしめた。

 有無を言わさず唇を重ねると、彩乃も唇をひらいて応じてくる。
 啄むように何度も口づけながら、お互いの服を脱がせあう。

「風呂……一緒に入るだろ?」
「うん」

 これから二人を隔てる距離に負けませんように。 
 会えない時間を耐えられますように。
 笑顔で彩乃に会いに戻れますように……。

 俺は心の中で繰り返し祈りつつ、彼女の白い肌にいくつもの痕をつけていく。
 全身に散った赤紫の花びらが、ずっと消えなければいいのに……そう思いながら、普段は言わないようなベタな愛の言葉を囁いて、俺は何度も何度も熱を放った。

 夕食が来る頃に慌てて浴衣を纏って、澄ました顔で配膳を待つ。

「今までイチャついてたって丸わかりかな」
 俺の耳元に湯上りの火照った顔を近付けて、横から彩乃が囁きかける。

 バレッタで留めた髪はまだ乾ききっていなくて、一筋こぼれ落ちている(おく)れ髪が色っぽい。
 目の縁と頬が上気したピンク色で、なんともいえない艶っぽさを醸しだしている。

「まあ、確かに……今まで風呂場でヤってました感が凄いな。今のおまえの顔、エロいもん」
「うっわ〜、これでも清純派で売ってるのに」
 彩乃が両手を頬に当て、困ったように肩を竦めてみせた。