思い出さなければよかったのに

 * * *

 目標ができると、時間が過ぎるのはあっという間だ。
 やるべきこと、やっておきたいことが沢山ありすぎて、一日が二十四時間ぽっちじゃ足りやしない。

 その二十四時間の殆どを、俺は出発準備と彩乃との思い出作りに費やした。
 日中は煩雑な渡航手続きに走り回り、彩乃が仕事から帰ってくると、磁石がくっつくみたいに二人寄り添って過ごす。

 一緒に料理をするのはかなり楽しかった。

 高校卒業後から芸能界で働きづめの彩乃は食事を外食や弁当で済ませることが多く、料理が大の苦手だ。
 俺に教わりながらオムライスを作ったときにはフワトロどころか焦げ焦げになり、「これじゃお嫁さんになれない!」と真っ赤な顔を両手で覆った。

「ハハッ、料理なんて俺ができるから問題ないだろ。彩乃のオムレツが卵の殻でジャリジャリしてても真っ黒焦げでも俺は完食する自信があるし、料理なんかしなくても俺が嫁にもらうから心配するな」

 すると彩乃は顔を覆った指の間から俺をチロリと見て、口を尖らせる。

「本当に? インドでめちゃくちゃ美味しいカレーを作る美女に迫られても浮気しない?」
「そんなもんするかよ。俺は日本のレトルトカレーで十分だし」

「でも、胸が大きくてエキゾチックなインド美人なんだよ。スタイル抜群の美女が香ばしい焼きたてのナンを差しだしてくるんだよ」
「ハハッ、すっげー想像力」

 俺は彩乃が作った黒こげオムレツを俺用のチキンライスに載せ終えると、フライパンをシンクに放り込んで彩乃の腰をグイッと抱き寄せる。

「俺はデカパイよりも焼きたてのナンよりも、彩乃のペチャパイが好きだ」
「ふふっ、何それ、褒めてないし。それに私はちゃんとCカップあるんだからね!」

「褒めてんだよ。おまえが公称Cカップだろうが本当はBカップしかなかろうが、そんなのどうでもいいんだ。俺は彩乃がいいんだよ。ずっとおまえだけ」

 俺がコツンとオデコを合わせて呟くと、彩乃の笑顔がグニャリと歪む。目の前の大きな瞳がみるみるうちに濡れていく。

「雄大……大好き……ずっと待ってるからね」
「ん……待ってて。必ず帰るから」

 唇を重ね、背中にまわした腕に力をこめる。
 そのままベッドに移動して、朝まで飽きることなく愛を確かめあう。

 その頃の俺達はそんなふうに寝る間も惜しんで、ひたすら心と身体にお互いの存在を刻みつけていた。