思い出さなければよかったのに

 ――晴人、俺こそごめんな。

 おまえにこんなことを言わせてごめん。
 それを言葉にするには勇気がいっただろう。だけど言わずにいられなかったんだよな。

 おまえが今言ったことは、そのまま彩乃の本心だ。
 アイツが言いたくても言えずに呑み込んだ言葉を、お前が代弁してくれているんだ。

「いや、おまえの言うとおりだよ」
 俺は前を向いたまま、俯いた晴人の髪をワシャワシャと撫でる。

「ほんと、最低だよな。いい加減なことをしているっていうのは自覚してる。だけど、俺が前に進むためにはどうしても必要なことなんだ」

 だから三年だけ猶予が欲しい。
 それで駄目ならフリーのアートカメラマンの夢を諦める。
 ちゃんとどこかに就職して安定した生活をすると約束する……。

 そう告げる俺の言葉を、晴人は黙って聞いていた。

「ごめんな、最後の我が儘だ」

 だから……。

「晴人、俺のぶんまで弟のおまえが姉ちゃんを守ってやってくれ。よろしく頼んだぞ」

 晴人はもう一度手の甲で目元を拭い、頷く。

「……わかった。雄大も気をつけて。夢……叶うといいな」
「うん、ありがとう」

 晴人、おまえは本当にいいヤツだよな。
 姉想いで優しくて真っ直ぐで……俺にとっても弟みたいな存在で、大切な親友だよ。

 だからこそ、おまえの至極真っ当な意見が胸を直撃して、痛くて苦しいんだ。
 だけどその痛みを、おまえの言葉を心に刻み付けて、俺は行くよ。前に進むために。

 ――今度帰ってきたそのときこそは、おまえに姉ちゃんのウエディングドレス姿を見せてやるからな……。
 ──けじめをつけて彩乃と結婚して……晴人と俺も、家族になろう。

 あの秋の日の縁側で、ぼんやりと空に浮かんだ月を見上げながら、俺はそう心に誓ったんだ。