思い出さなければよかったのに

 その日は彩乃の母親と晴人も家に呼ぶと、みんなでホットプレートを囲んで焼肉をした。
 俺の最初の行き先がインドで、しばらくは牛肉を食べられないだろうから、今のうちに食い溜めしておけという両親の心遣いらしい。

「彩乃ちゃん、うちの雄大が勝手言って、本当にごめんなさいね」
「真理子さん、ありがとう。雄大の性格はわかりきってるんで、大丈夫!」

 話題の中心はもっぱら我が儘な俺への親からの嫌味。
 だけど最後には、「まあ雄大、俺達ができる限りの援助はしてやるから、完全燃焼して納得して帰ってこい」そんな父親の言葉でウルッとさせられた。

 たらふく飲んで食べて満足した俺は、一人で縁側に行き佇む。
 ここにこうして座るのも、この縁側から眺める景色もしばらくはお預けだ。

 不意に床板がギシッと音を立てた。振り向くと晴人がすぐ後ろに立って俺を見下ろしている。
「俺もいい?」その言葉に俺が黙って横にズレ、晴人が空いた場所に腰を下ろす。

「仕事を辞めて海外に行くなんてさ、雄大も思いきったことを考えたね」
「……まあな」
 晴人が後ろをチラリと振り返ったから、釣られて俺もそっちを向いた。

 座敷の向こう側の居間では、二家族のみんなが楽しそうに談笑している。
 俺の母さんにキャッキャと話し掛けている彩乃の横顔が見えた。
 それを確認してから俺達は揃って庭に向き直る。きっと晴人は俺に言いたいことがあるんだろう。

「雄大はさ、やっぱり写真家の夢が諦められないの?」
「うん……まあ、そうだな」

 隣で晴人がゴクリと唾を飲み込むのがわかった。

「俺……雄大のことが好きだし、姉ちゃんと一緒になってくれたら嬉しいと思うよ。だけどさ、今のままだったら、姉ちゃんは幸せになれないんじゃないか……って思ったりもするんだ」
「……うん」

「だってさ、二人が付き合って何年になる? 同棲してから数えても、もう二年だろ? 姉ちゃんは二十六歳だよ、女の適齢期じゃん。 それで置いてきぼりにするって……あんまりじゃない?」

 そう言う晴人の声が震えていた。
 彼はグイッと右腕で目元を拭い、「こんなこと言ってごめんな」……と睫毛を伏せる。