思い出さなければよかったのに

「嘘っ、海外って……どういうこと⁉︎ 写真なら日本でだって……」
「駄目なんだ……俺さ、どうしても成瀬先輩を意識しちゃうんだ」

「どうして? 私、成瀬先輩とは本当に何もないよ? 私が好きなのは雄大だけで……」
「わかってる。それは疑ってないし、そういうことじゃないんだ。俺が勝手にライバル視してるだけ」

 先輩から見れば、ライバルでも何でもないのに。向こうは遥か先を行っているのに。

「高一の夏……あのときに先輩が撮った彩乃が、頭の中から離れないんだ」

 彩乃の一番の笑顔を知っているのは俺のはずなのに。
 俺なら彩乃をもっと自然に、もっと綺麗に撮れるはずなのに。
 コイツの本当の最高の笑顔を写真に残したいのに。

「馬鹿だろ? 同じ土俵に立ててもいないのにな」

「……同じ土俵に立たなきゃいけないの? 私の一番の笑顔は雄大のものだよ。 いくらでも写真を撮ればいいじゃない」
「……駄目なんだ」

「だったら……私が雄大以外の人の前で笑わなければいい。 私、モデルを辞めたっていいんだよ! そうすれば……」
「だから、それが駄目なんだって!」

 俺が思わず声を荒げると、彩乃の肩がビクッと跳ねた。
 そして頬を震わせたかと思うと、みるみるうちに瞳が潤みだす。

「知っている人が誰もいない場所で、自分が満足できるまで、好きなものを好きなように撮ってみたいんだ」
「雄大……」
「ごめんな、勝手なこと言って。 三年ほしい……それが俺への誕生日プレゼント」

 彩乃が両手で顔を覆って俯いた。
 俺は黙ったまま何も言えずに、彩乃の身体を両手でキツく抱き締める。

 肩の震えが収まるまで、涙が止まるまで、コイツの怒りと痛みを受け止めて……だけど決心は揺るがなかった。