思い出さなければよかったのに

 * * *

 俺の二十六歳の誕生日は金曜日で、彩乃は朝から仕事が入っていた。

 少し前からプレゼントは何がいいかと聞かれていたが、『どうしても欲しいものがあるけれど、それは当日に言うから何も買わなくていい』と言っておいた。
 彩乃は怪訝そうな顔をしながらも、それ以上何も聞いてこなかった。

 当日、俺は仕事帰りにコンビニでダッツの抹茶アイスとアイスキャンディーのソーダ味を買って帰り、オムライスを作って彩乃を待った。
 何時になろうが起きて待っているつもりだ。

「ごめんね〜、遅くなって」

 この日は夜遅くの仕事を入れないでほしいと事務所にお願いしてあったらしく、彩乃は夜八時過ぎには帰ってきた。
 急いでシャワーを浴びて出てくると、ソファで俺の隣に座る。
 ガラステーブルに置かれたオムライスを目にしてパアッと顔を輝かせたけれど、すぐに不思議そうに俺を見た。

「オムライスって……私の好物じゃん」
「うん……おまえに喜んでもらおうと思って」
「雄大の誕生日なのに?」
「うん。俺の誕生日だから」

 俺が真顔でそう言うと、彩乃が唇をキュッと引き結んで黙り込む。
 俺も黙ったものだから部屋の中がシンとして、息をするのも苦しくなった。

「プレゼント……欲しいものって、何?」
「……うん……食べてから言う」
「今言って」
「うん……」

 俺はローソファーから降りると、彩乃のほうを向いてカーペットに正座する。
 彩乃も俺の前に正座して向き合った。

 俺は一つ深呼吸してから思いきって口をひらく。

「俺……やっぱり自分の作品を撮りたいんだ」
「……うん」
「就職してからも、アートカメラマンになりたいって気持ちがずっとあって……」
「うん……」

 俺はゴクリと唾を飲み込んだ。

「今の会社を辞めて、海外に行ってみようかと思ってる」
「海外⁉︎」

 黙って聞いていた彩乃の目が大きく見開かれた。
 俺の膝に手を置いて、縋るような目で見つめてくる。