思い出さなければよかったのに

――アレっ?

 彼女は俺の……。
 俺は彼女を待たせていて、何か言わなきゃいけなくて、だから帰ってきて……。

「なあ、俺、どうしてここに……」
 続きを言う前に、再び彼女のキスで口を塞がれた。

「もういいじゃない、何も考えなくて」
「でも……」

 彼女に両手でトンと肩を押され、ソファーに押し倒される。
 上から俺を見下ろしながら、彼女は自らワンピースのファスナーを下ろし、スルリと肩を(あら)わにした。
 次いでブラのホックに手を掛けてはずしショーツ一枚の姿になると、ゆっくりと俺に身体を重ねてきて……。

 身体にのし掛かる彼女の体重と、ほのかに香る甘い匂い。
 懐かしさにフラフラと()き寄せられて、思考が曖昧(あいまい)になる。
 顔の角度を何度も変えながら、ひたすらお互いの唇を貪った。

 彼女の背中に腕をまわしてキツく抱き寄せ、クルリと身体を反転させて向きを変える。
 今度は俺が上から見下ろして、自分から彼女に顔を寄せていく。身体の奥から欲情が(たぎ)りだす。

 ――ずっと、ずっとこうしたかったんだ……。

 会いたくて、抱きしめたくて。
 だから俺は……。

 ――あっ!

 身体が繋がったその瞬間、俺の目の前で何かがパンッ! と勢いよく弾けた。
 それを合図に頭の中を占めていた白い霧がスッと消えていく。

『おまえの二十九歳の誕生日には必ず帰ってくるから』
『絶対よ、約束して』
『ああ、約束だ。ケーキにロウソクを立てて待ってろよ』

『—— やった! 大賞だ! これでやっと胸を張って日本に帰れるぞ!」

 キキーーーッ!

 車の急ブレーキの音。
 地面に散らばる赤い花びら。
 真っ青な空。
 全身を襲う強い衝撃と痛み。

『……乃……!」

 ああ、そうか……俺は……。
 そしておまえは……。

「ごめんな……彩乃」