思い出さなければよかったのに

「雄大、私、先輩とは何でもないからね。連絡先も知らないよ。 ただ一緒にお仕事しただけ……」

 湿った声音にハッとして顔を向けると、アイツの大きな瞳がウルウル潤んで揺れていた。
 目の縁ギリギリまで涙が溜まっていて、一度でも瞬きしたら零れそうだ。
 俺はガバッと身体を起こして彩乃の肩に両手を置く。

「ごめん、言いすぎた。わかってるから……」
「わかってないよ!」

 バッと肩の手を払われ、アイツの瞳からはとうとう雫が零れ落ちて……。

「雄大は全然わかってない! 私がどんなに今日を楽しみにしてたのか。久し振りに雄大に会えると思って、どれだけワクワクしてたのか……!」
「彩乃……」

「ペディキュアを塗り直してきたし、下着だってちょっとセクシーなのを履いてきたんだよ! 今夜はお母さんが夜勤だっていうから、晴人に友達の家に行けって言ってあって……」

 思わぬ過激な発言に、俺は焦って周囲を見まわす。

「ちょっ、おい彩乃、声がデカい!」
「そんなのどうでもいいよ! 雄大は私に会いたくなかったの? イチャイチャしたくなかったの? 成瀬先輩のことなんて関係ないよ! あの人はただの先輩じゃん! 私の彼氏は雄大でしょ!」
「わかった、わかったから!」

 彩乃をガバッと抱き寄せて、アイツの頭を抱え込む。胸に生温かい滲みが広がっていく。

「ごめんな、俺がおまえの彼氏なのにな……やっとゆっくり会えたんだもんな。俺が一番喜んでやらなきゃいけなかったのに……」
「うっ……ううっ………バカ雄大…」
「うん、ごめん……」

 そのまま彩乃に押し倒されて、アイツが上から見下ろしてきた。
 長い睫毛がバサッと閉じられて、綺麗な形の唇が薄くひらいて近づいてくる。

「雄大、好き。雄大だけ……」
「彩乃……っ!」

 俺は彩乃の背中と後頭部に手をまわし、グイッと細い身体を引き寄せた。
 貪るようにキスをしながら、Tシャツの裾から手を入れて、ブラのホックをはずす。

「あっ……下にみんなが……」
「声を出すなよ」

 自分の醜い嫉妬心を、劣等感を、ちっぽけなプライドを、見えない焦りを、そして彩乃への劣情を……。
 全部丸ごとぶつけるかのように、彩乃を激しく貫いた。