思い出さなければよかったのに

「――それでね、本格的にダンスをしたのは久し振りだったから、全身が筋肉痛になっちゃって……」
「姉ちゃん一人だけ年増だったもんな。でも、ピチピチの現役JKに囲まれて、まあ頑張ってたほうなんじゃないの?」
「うるさい、晴人、黙れ!」

 彩乃の母親と晴人も招いての、我が家での夕食会。
 母校に凱旋した彩乃は後輩との共演がよほど嬉しかったらしく、さっきから上機嫌で今日の撮影の様子を語っている。

「それで、成瀬先輩が集合写真を撮ってくれるって言ったら、ダンス部の子たちが〝先輩も一緒に入ってくださ〜い!〟なんてキャーキャー言っちゃってね。結局スタッフの人が写真を撮ってくれて……」

 そこまで話したところで、彩乃がプツリと会話を途切れさせた。
 ずっと黙りこんでいる俺の不機嫌そうな表情に気がついたんだろう。

「あっ、ねえ、雄大のいるスタジオは相変わらず忙しいの?」

 媚びるような声音にイラッとする。
 わざとらしく話題を変えようとするから、こっちから突っ込んでやった。

「そうか、先輩は卒業しても相変わらずみんなの王子様か。彩乃、会えてよかったな。 盛り上がって連絡先の交換でもした?」

 ――あっ、言い過ぎた……。

 その場の空気が一瞬で氷点下まで冷え込んだ。
 マズい、こんな嫌味を言うつもりなんてなかったのに。ニコニコしながら話を聞こうって決めて帰ってきたのに……。

「雄大! 彩乃ちゃんがせっかく帰ってきてるのに、あなたって子は……」
「ご馳走様でした。……彩乃、みんなも、ごゆっくり」

 母親の言葉を遮ると、俺は自分のぶんの食器をガシャガシャとシンクに放り込み、一人で二階へと上がっていった。

 トントン……とノックの音。

 ベッドに仰向けになって知らんぷりしていたら、カチャリとドアノブが下がってドアがひらく。
 彩乃は部屋に入って後ろ手でドアを閉じると、気まずそうにおずおずと近づいてくる。
 ベッドにポスンと腰掛けて、「ごめんね……」と俺の顔を覗き込んだ。

「……どうしておまえが謝るんだよ」
 俺は頭の後ろで指を組んだままフイッと顔を逸らし、反対側の何もない白い壁を見た。

 ――俺、幼稚すぎだろう!

 ダサいよな。自分でもわかっている。こんなのただの嫉妬だ。

 フリーでやりたい仕事ができている先輩と、ただのアシスタントの俺。
 彩乃と釣り合っている先輩と、不釣り合いな俺。
 華やかな世界で活躍している二人と冴えない俺。

 一人で勝手に卑屈になって、イライラを彩乃にぶつけただけだ。