思い出さなければよかったのに

 俺達の地元の星は、彩乃だけではなかった。

 成瀬駿。
 俺たちの二つ上の先輩は、高校卒業後に東京の専門学校に進み、その後はバイトしていたフォトスタジオで働きはじめた。

 成瀬先輩の噂は地元の仲間をつうじて嫌でも耳に入ってくる。
 専門学校からバイト先にそのまま就職。
 横浜か東京かの違いだけで、一見俺と同じ道を歩んでいるように見えるけれど、実際には天と地ほどの大きな差がある。

 成瀬工務店といえば俺達の地元では有名な建設会社で、先輩はそこの次男坊。
 家業は長男が継ぐから先輩は自由気ままな身分で、東京で一人暮らししながら写真の専門学校に進み、そのままカメラアシスタントの道を選んだ。

 家からの援助があるから薄給のアシスタントでも生活に困ることがなく、職場にも駅にも近い場所に快適なアパートを借りて住むことができた。
 職場と住居が近ければ、夜遅くまで仕事をしても家に帰って自分のベッドで寝ることができる。
 精神的に余裕があるから自分の作品制作にも時間を割けるようになる。

 多くのカメラアシスタントがその真逆の状況で負のサイクルに陥り、自分の作品を手掛けることなくこの道を断念していくことを考えると、彼はとても環境に恵まれていたと思う。

 もちろんそれだけが成功の理由ではないし、ちゃんとした実力があってのことだろう。しかし彼はアシスタント二年目にして三十五歳以下の若手向けのフォトコンテストで見事入選を果たし、その翌年にはとっとと事務所を独立していた。

 あまりにも順調で華々しすぎる経歴。そこに少なからず実家の太さが影響していると思ってしまうのは、ただの(ひが)みだろうか。
 その成瀬先輩が、彩乃と仕事をすることになったという。