思い出さなければよかったのに

 * * *

 翌年、カメラマンの専門学校を卒業した俺は、以前からバイトしていた撮影スタジオにそのままアシスタントとして就職した。

 月給手取り十二万、勤務時間は早朝から深夜までの不定期。徹夜あり、定休日なし。
 労働基準法? 何ソレ? 状態の過酷な現場。
 時間が不規則だから他でのバイトもできず、アパートでの一人暮らしは無理だと判断して実家暮らしを続けている。

 それでもいつかは独立して写真家としての仕事ができると信じ、キツい日々に耐えていた。

 一方の彩乃はというと、女性向けのファッション雑誌のセンターを飾る傍らたまにバラエティ番組なんかにもでたりして、相変わらずの売れっ子だ。
 毎日俺にメッセージを送ってきては、撮影現場の様子だとか、今日は何を食べたかとか些細なことも知らせてくれる。

 だけど俺のほうは先輩アシスタントやカメラマンにこき使われるわ怒鳴られまくるわで疲労困憊。返事どころか文章に目も通せない日も少なくない。
 それでもアイツは時間ができれば横浜に帰ってきて、なんとか俺との時間を作ろうとしてくれていた。

 彩乃は地元の星で有名人だったし、街なかでのデートは写真を撮られる可能性があったから、会うのは基本的に家の中。
 だけど二人きりで過ごしたかったから、たまに俺の運転で隣町のラブホまで行って、短い逢瀬を楽しんだりもしていた。

「一緒に住みたいな」
 それが、その頃の彩乃の口癖。

 俺はいずれ東京のスタジオで働きたいと思っていたけれど、経済面での自立ができないことから断念していた。
 それを知っている彩乃が、自分がアパート代を出すから同棲しないかと何度も言ってきていたのだ。

「嫌だよ、それじゃまるでヒモじゃないか」
 俺がそう言うと、彩乃はいつもつらそうな顔をする。
「雄大がいるから私は頑張れるんだよ。一緒にいてくれたらもっと頑張れる。それでいっぱい稼いで、二人の生活のためにお金を使って……それじゃ駄目なの?」

 ――駄目なんだよ!

 家賃を折半ならまだしも、全額彼女に支払わせて養ってもらうだなんて、男のプライドが許さない。
 それをしてしまったら、俺は卑屈になってアイツと普通に接することができなくなるだろう。今みたいな恋人の関係ではいられなくなる……そんなふうに思っていたんだ。