思い出さなければよかったのに

 カシャッ、カシャッ……。

「やっぱり音が軽いかなぁ。こっちも悪くはないけど」

 専門学校二年の夏休み。
 俺が手にしているのは中古で買ったばかりのD7500。
 家の庭にしゃがみ込み、花壇に咲いているマリーゴールドを撮影していたら、急に背後から声がした。

「何が軽いって?」
「えっ? ……うわっ!」
「うわっ! って何よ。久々に会いにきた彼女に対して失礼だな」

 振り向いたそこには、棒付きのアイスキャンディーを片手に立っている彩乃。
 裾の部分を横でキュッと結んだ白いTシャツ。デニム地のショートパンツからスラリと伸びた真っ直ぐで細い脚。白いサンダルから見える爪先は、薄い桜色に塗られている。

 しばらくボンヤリと見惚れていたら、「どうしたの? 暑さで頭がやられちゃったんじゃないの? それとも可愛い彼女に見惚れちゃった?」と顔を覗き込まれた。

 別に暑さでイカれちゃいないけど、後半の指摘は合っている。久々に見た彩乃は垢抜けて、ますます綺麗になっていた。

「ちげーよ。撮影に夢中になってたら急に声を掛けられてビビっただけ。おまえ、人んちにきたなら『お邪魔します』くらい言えよ」

 相変わらず素直じゃない俺は、彼女を直視できなくて、わずかに視線を逸らして憎まれ口を叩く。

「驚かせてごめんってば。だって家にきたら真理子さんがアイスをくれて、雄大は庭にいるよ〜って教えてくれたから」

 クスクス笑いながらアイスの先を俺の前にヌッと差し出してくる。
 目の前の水色のアイスに齧りつくと、胃の中に冷たい塊が流れ込んできて、次にこめかみがキンとした。

「んっ、冷たっ。ソーダ味、美味いな」
「だよね。ガリガリ君はソーダ味一択だよね」
「だな」

 俺が立ち上がって縁側に座ると、彩乃がついてきて隣に座る。
 彩乃がアイスを一口齧り、俺に差し出して。俺が一口齧ったら、またアイツが食べて。

「おい、アイスが溶けて腕まで垂れてきてるぞ」
「あっ、本当だ!」

 慌てるアイツの腕を俺が掴んでペロッと舐めて、二人の目が合って。
 自然に顔が近づいて、チュッと短いキスをする。

「……雄大、ただいま」
「ん……お帰り」
 もう一度口づける。少し冷たいソーダ味のキス。

 絡めた舌をほどいて顔を離すと、彩乃がコテンと俺の肩に頭を預けてくる。
 そんな行為が当たりまえになっているほど、そのころの俺達はすっかり恋人らしくなっていた。

 十五歳の高一の秋から付き合いはじめて、今は十九歳の夏。もうすぐトランスフォーム歴丸四年になる。