思い出さなければよかったのに

 彩乃の足が回復して松葉杖もはずれると、登下校の道では彩乃が俺の髪を触ったり頬を(つつ)いてみたりとじゃれついて、またいつもどおりの光景だ。

 ダンス部の練習にも戻れるようになった。
 窓から流れ込んでくるアップテンポな洋楽。はしゃぐ女子の声。
 それを頬杖ついて窓から眺めていると、部活仲間に話し掛けられた。

「おまえさ、あんなにたくさん部員がいても、彼女だとすぐに見つけられるもんなの?」
「いや、アイツはポニーテールがピョンピョン跳ねてるから目立つんだよ」
「ポニーテールの子なんてウジャウジャいるだろ」
「う~ん……だけどアイツのは違うんだよ。なんかピョンピョンしてて、とにかく目に飛び込んでくるっていうか」
「ふ〜ん……愛だな」

 ――まあ、愛だよな。

 言われて照れながらも、嬉しいし満更でもない。

 ニヤケつつ再び窓から下を覗き込むと、彩乃が笑顔を浮かべながら、胸の前で遠慮がちに小さく手を振ってきた。
 俺が手を振り返すと、彩乃がパアッと笑顔を輝かせ、白い歯を見せる。

『もう足は大丈夫だよ』と伝えたいのだろう。ピョンピョン跳ねてみせながら、手を大きくブンブン振った。
 速攻で先輩に注意され、肩をすくめている。

「ブハッ、馬鹿だな」
 思わず呟いたら、彩乃がそれに気付いてベーッと舌を出す。
 だけどすぐに俺の後方に視線を移すと、恥ずかしそうに頬を赤らめて、そしてペコリと頭を下げた。

「えっ?」
 バッと振り向いたら、後ろから俺の友達も顔を出して彩乃に手を振っている。

「おまえの彼女、相変わらず可愛いな〜」
「うん、本当に可愛い」
 素直に認めたら、「くそっ、リア充爆発しろ!」と首をグイグイ締める真似をされた。

 笑いながら友達の腕を引き離しつつ、また窓の下を見る。彩乃は既に練習に戻って真剣にダンスをはじめていた。
 左右に跳ねるポニーテール。
 ショートパンツから覗く、スラッとした真っ直ぐな長い脚。

 ――綺麗だな……。

 さがす必要なんてない。
 ピョンピョン動くアイツの姿だけが、自然と目に飛び込んでくるんだ。
 可愛くて素直でちょっとエッチな俺の彼女。

 ――丸ごと俺のものにしたいな。

 あの日保健室で触れた白くて丸っこい膝小僧と柔らかい胸の感触を思い浮かべながら、改めてそう思った。