思い出さなければよかったのに

 * * *

 高校二年生になっても俺達は相変わらずで、俺は自分の部活がない日でも部室にきて、カメラをいじったり宿題をしながら彩乃を待つのを日課にしていた。
 そしてそれをほかの部員達から冷やかされるのも既にお約束のやりとりだ。

「先輩たちってラブラブですよね。羨ましいなぁ〜」
 一年生の女子部員二人組が話しかけてくる。

「待っててやらないと彩乃があとでギャーギャーうるさいし、親にチクられて夕飯抜きにされちゃうんだよ」

 そう口では迷惑そうにしながらも、俺はこの時間が嫌いではなかった。
 ……というか、誰に頼まれなくたって、俺はきっと彩乃を待っていたに違いない。

 白いカーテンのフワリと揺れるその席で、時々手を休めて外を眺めては、可愛い恋人のダンス姿を盗み見る。
 彩乃がチラリと二階の窓を見上げると、その視線の先には俺がいて。目が合うと、アイツは眩しそうに、そして心底嬉しそうに目を細めるんだ。

 俺にとってこの至福の時間がとても大切で、ずっとこのままでいられたらいいのに……なんて考えていた。
 だけど同時に、もっと先に進みたいとも思っていて……。

 ある日、机に頬杖をついてぼんやり雲を眺めていた俺は、窓の外で突如起こったザワめきに慌てて身を乗りだした。
 ダンス部の部員が輪になって取り囲んでいる中心に、彩乃がいる。地面に座り込み、右足だけ前に投げ出して足首を押さえていた。

「彩乃っ!」

 机に手をつき立ち上がると、膝裏で勢いよく押された椅子がガタン! と床にひっくり返る。
 だけど今はそれどころじゃない。倒れた椅子をそのままに、俺は弾丸の如く部室から飛びだし、階段を駆け下りた。

「彩乃っ、どうした!」

 俺の大声に、ダンス部員が一斉にこちらを振り返る。注目を浴びながらも人垣を掻き分けて輪の中に入ると、彩乃の前にしゃがみ込む。

「大丈夫か、足が痛むのか?」
「うん……ちょっと足首を捻っちゃったみたい」
 つらそうに顔をしかめている。自力で歩くのは無理だろう。

「ほら、乗れよ。保健室に行くぞ」
「うん」

 俺が背中を向けると、彩乃が躊躇なく首に手を回し、身体を預ける。背中にアイツの熱と体重を感じながら、今出てきた玄関へと向かった。

「雄大、駆け付けてくれて、ありがとう。王子様みたいだね」
 首にギュッとつかまりながら耳元で囁かれて、心臓がドキドキする。

「まあ、王子様みたいにカッコよくはないけどさ……おまえのことは全力で守るよ。彼氏だからな」
「うん、私の彼氏は世界一カッコいい。嬉しいな……」
「そっか」
「うん、雄大はカッコいい。大好き」

 細くて軽い身体を背負いながら、誇らしさと愛しさが次から次へと胸に込み上げてくる。嬉しいような泣きたいような気持ちになった。
 彩乃の彼氏になれてよかった。コイツを大事にしてやらなきゃな……改めてそう思う。