「知らないです。葵に何があったんですか?」
「……死んだんだよ葵。もう2〜3週間前になるかな」
「えっ? 葵が……死んだ?」
「クラブに来てる連中も何人かは通夜に行ったみたいだけど、お前は呼ばれてなかったんだな」
その後もオーナーからは色々と言葉をかけられたが、何も頭に入ってこなかった。『また店に顔出せよ』という別れ際の言葉に、『はい』という気のない返事をしたことと、葵が死んだという事実以外は、何も覚えていなかった。
それから僕は、抜け殻のように日々を過ごした。彼女に宣言した通りに川越高校に通い、コスパだけを重視して名古屋市内の中堅レベルぐらいの私立大学に推薦入試で合格した。
大学在学中に、アルバイトで塾講師や家庭教師を経験し、人に勉強を教えることにやりがいを見いだしていた。それも全部彼女がきっかけだ。あの夏の日に、砂浜で彼女に軽く英語を教えた経験。あれが間違いなく教育者の道に進む原動力となっていた。
それでも、学校教師になりたくないという気持ちは変わらず、大学の教職課程を受講することはなかった。卒業後は他業種で働きながら、副業として家庭教師のアルバイトを続けていた。
色々な経験を経て、僕はプロ家庭教師として独立することになった。簡単なホームページやブログを開設すると、意外にもすぐに体験授業の申し込みがあった。相手は中3の女の子とのことで、中村翠という名前だった。
保護者の方と電話で簡単な打ち合わせを行い、後日、自宅を訪れた。
両親ともに体験授業の時間中も、自営業の中華料理店の仕事に行かなければならないという理由で、簡単な挨拶だけして出ていってしまった。
僕は正直呆れてしまった。万が一、初対面の男がおかしな人間だったらどうするつもりなのだろう、と思った。自分の娘が何か被害に遭う可能性を考えないのだろうか、と。
娘は娘で呑気に「行ってらっしゃい」と言って、平然としている。
「信用してくれてるのはありがたいけど、これは駄目だよな」
「何が駄目?」
初対面の少女がキョトンと目を丸くしている。
「いや、万が一俺がおかしな人間だったら娘が被害に遭うとか考えてないのかな? って」
「おかしな人間か……中学生のくせにクラブで酒を飲んだり、高校生の女を連れて熊野まで花火を見に行ったりとか?」
「……えっ?」
「……死んだんだよ葵。もう2〜3週間前になるかな」
「えっ? 葵が……死んだ?」
「クラブに来てる連中も何人かは通夜に行ったみたいだけど、お前は呼ばれてなかったんだな」
その後もオーナーからは色々と言葉をかけられたが、何も頭に入ってこなかった。『また店に顔出せよ』という別れ際の言葉に、『はい』という気のない返事をしたことと、葵が死んだという事実以外は、何も覚えていなかった。
それから僕は、抜け殻のように日々を過ごした。彼女に宣言した通りに川越高校に通い、コスパだけを重視して名古屋市内の中堅レベルぐらいの私立大学に推薦入試で合格した。
大学在学中に、アルバイトで塾講師や家庭教師を経験し、人に勉強を教えることにやりがいを見いだしていた。それも全部彼女がきっかけだ。あの夏の日に、砂浜で彼女に軽く英語を教えた経験。あれが間違いなく教育者の道に進む原動力となっていた。
それでも、学校教師になりたくないという気持ちは変わらず、大学の教職課程を受講することはなかった。卒業後は他業種で働きながら、副業として家庭教師のアルバイトを続けていた。
色々な経験を経て、僕はプロ家庭教師として独立することになった。簡単なホームページやブログを開設すると、意外にもすぐに体験授業の申し込みがあった。相手は中3の女の子とのことで、中村翠という名前だった。
保護者の方と電話で簡単な打ち合わせを行い、後日、自宅を訪れた。
両親ともに体験授業の時間中も、自営業の中華料理店の仕事に行かなければならないという理由で、簡単な挨拶だけして出ていってしまった。
僕は正直呆れてしまった。万が一、初対面の男がおかしな人間だったらどうするつもりなのだろう、と思った。自分の娘が何か被害に遭う可能性を考えないのだろうか、と。
娘は娘で呑気に「行ってらっしゃい」と言って、平然としている。
「信用してくれてるのはありがたいけど、これは駄目だよな」
「何が駄目?」
初対面の少女がキョトンと目を丸くしている。
「いや、万が一俺がおかしな人間だったら娘が被害に遭うとか考えてないのかな? って」
「おかしな人間か……中学生のくせにクラブで酒を飲んだり、高校生の女を連れて熊野まで花火を見に行ったりとか?」
「……えっ?」



