芋虫が蝶になる時

「思いだした?」

 目の前で微笑むのは、亜由美の兄――、高崎雅幸(まさゆき)だ。

 運命を分けた〝あの日〟、私が彼を目撃して褒めてしまったがゆえに、亜由美の不興を買った元凶。

 ……いや、彼は何も悪くない。

 雅幸さんはただ妹を迎えに来ただけで、彼が私に何かした訳じゃない。

 悪いのはブラコンの亜由美で……。

 様々な事を考えて表情を凍り付かせている私を、雅幸さんは楽しそうに見ている。

 ――彼は私に復讐しているの?

 今までは愚かにも彼を親切な人と思っていたけれど、雅幸さんが私と亜由美の関係を知っているなら、ただの優しさで済む訳がない。

「亜由美、これからもお兄ちゃんがお前を守ってあげるからね」

 彼は美しく笑い、意味不明の事を言う。

 ――何を言っているの?

 ――私は亜由美じゃない。

 私は強い意志を込めて雅幸さんを見つめ、ハッキリと首を左右に振る。

「自分は高崎亜由美じゃないと言うのか?」

 尋ねられ、私はコクンと頷く。

「じゃあ、これは誰だ?」

 雅幸さんは微笑み、脇に置いてあった鏡――、美容室で使うバックミラーを目の前で開いた。

 それに映っていたのは――。

「あぁああああぁああああぁっっ!!」

 私は声帯を震わせて絶叫する。

 鏡に映っていたのは、殺したはずの亜由美だ。

 完璧な美貌を誇る、人形のような美女が鏡に映っていた。

 サラリとしたロングヘアに、くっきり二重の大きな目、スッと通った鼻に口角の上がった形のいい唇。

 整形をする際、どうせ今後一生会わないなら、亜由美のような顔になりたいと思って、なるべく彼女に近づくようにした。

 彼女が私にした事は決して許したくないけれど、亜由美の顔だけは認めていた。

 だからこそ〝この顔〟が、紛れもない本物である事は、私が一番よく分かる。

 どんなに似せて整形しても、結局本物にはなれなかった。

 だから――、同僚に〝ああ〟言われた。



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