芋虫が蝶になる時

 複数人に頬を叩かれ、腫れ上がった顔を見て嗤われた。

 トイレで全裸にされ、ホースの水を掛けられた。

 教科書やノートはらくがきまみれ、机にもありとあらゆる罵詈雑言がマジックで書かれていた。

『死ね』『ブスに生きる価値はない』と言われるのは日常茶飯事。

 私が何かを言ってもすべて無視されるのに、私が彼女たちを無視すると凄まじいリンチに遭う。

 クラスメイトたちは私がされている事を知りながら、みんな無視していた。

 私に直接手を下していたのは、五人の女子生徒と、四人の男子生徒だった。

 彼女たちはクラスのカースト上位に君臨する人たちで、私は元々、地味だけれど普通の扱いを受けていたはずだった。

 けれど、亜由美の兄が学校前まで彼女を迎えに来た時、その姿を見て翌日彼女にこう言ってしまった。

『素敵なお兄さんだね。高崎さんはお人形さんみたいに綺麗だし、あれだけ格好いいお兄さんがいるのも頷ける』

 たったそれだけの、誰でも抱く感想だ。

 好意を抱いたと言った訳でもないし、媚びようとした訳でもない。

 綺麗な花を見て『綺麗だね』と言ったようなものだ。

 なのにその翌日から、私はいじめのターゲットになってしまったのだ。

 彼女の兄を知る人は他にもいるし、似たような事を言った人はいると思う。

 けれど()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 確かに私は美人ではない。

 一重に見える奥二重の目、体は痩せていて、髪はくせっ毛。

 ただそれだけなのに、私は同級生の兄を褒める事すら許されなかった。

 亜由美は手下たちに私をリンチさせ、自分は後ろで高みの見物を決め込んでいた。

 彼女は美しかった。

 艶やかなロングヘアに、優美な眉、くっきりとした二重に通った鼻筋。

 唇の形まで良くて、まるで人形のようだった。

 この世に祝福されて裕福な家に生まれ、美形の両親のもと、完璧な兄に愛されて育った、完全無欠のお嬢様。

 彼女みたいな人にとって、私のような不細工は目の前に存在しているだけでも許せないのかもしれない。

 壮絶ないじめを受けても私が学校に通ったのは、大学に進学すると決めていたからだ。

 私の家はあまり裕福ではないから、高校を卒業したあと働くものと思い込んでいた。

 けれど父が会社に通う傍ら、母は複数の仕事を掛け持ちしてお金を稼ぎ、学費を工面してくれた。

 その苦労を知っていたから、何がなんでも高校を卒業し、亜由美たちと関わりのないところで、大学生生活を謳歌しようと思っていたのだ。

 結果的に、私は勝った。

 どんな事をされてもくじけず、耐え抜いて、高校を卒業したあと地方の大学に通って、自由を楽しんだ。

 容姿がいかに重要かを知ったから、大学生時代にアルバイトを頑張ってお金を貯め、社会人になる前に整形をした。

 目は二重にし、鼻もスッと通った形にし、ストレートパーマをかければ、もう私をブスと言う人はいなくなった。

 たまに『〝やって〟そう』と言われた事はあったけれど、ただの僻みだと思うようにした。

 私が整形していようが、誰かに迷惑をかけている訳じゃない。

 むしろ、もうこれで外見が理由でいじめられる事はないと思うと、とても気持ちが楽になって生きるのが楽しくなった。

 地元には戻らず、そのまま大学がある××市で働いていた私は、彼氏もできて幸せな日々を送っていた。





 なぜか、高崎亜由美が私の勤めている会社に、中途採用されるまでは――。





 社会人になり、彼氏もできてすべてが順調と思っていた私の前に、悪魔が現れた。

 職場のみんなは、すぐに美しい彼女に骨抜きになった。

 亜由美は最初、私を見てもすぐに誰だか分からなかったみたいだ。

 けれど同僚が私の名前を呼んだのを聞いて、したり顔で笑う。

『■■さん、久しぶり。随分変わったね』

 嫌な予感がすると思ったら、的中した。

 亜由美は私にまとわりつき、私が努力で勝ち得たものをすべて奪っていった。

 同僚との交友関係も、上司や先輩からの信頼も、――――彼氏も。





 だから私は――、彼女を殺した。

 人気のない場所に呼び出し、包丁で刺し、自慢の顔面をハンマーでグチャグチャに叩いて、手脚を糸鋸で切断した。

 それですべてが終わったと思っていたのに――。



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