芋虫が蝶になる時

「君は、自分を自分たらしめるものは、なんだと思う?」

 食事の前、この人は必ず問答のような事を言う。

「人間関係? 学歴? 稼いだ証拠である預金額? 道の駅スタンプラリーを制覇した、スタンプ帳なんてのもいいね。何かあったらすぐ写真をとってSNSアカウントに載せるなら、それもまた自分を形作るものだと言える」

 そんなのどうでもいい。

 お腹空いた。

 私の気持ちに呼応するように、グゥゥウウゥ……、と大きく腹の虫が鳴く。

「分かったよ。ハラペコなんだね。今日は焼き肉だよ」

 お肉! お肉!

 私は涎を垂らし、手脚をバタつかせる。

 しばらくして、近くに卓上コンロが置かれ、鉄板の上で肉が焼かれる、ジューッという音が聞こえ始めた。

 見えないけれど、適度にサシの入った肉に火が入り、徐々に周囲が焼けてカリカリになっていくのが想像できる。

 上を向いている面が白っぽくなってきたところで、ひっくり返してまたジューッと音が立つ。

 彼は塩を振ったのだろうか。

 パラパラという小さな音がしたあと、さらに焼ける勢いが増した。

「火傷したらいけないから、先に焼いて冷ましておくね」

 立て続けに食欲をそそる音が立ち、私はダラダラと涎を零して、お肉を食べられる時を待つ。

「焼き肉だけだと胃もたれするから、お腹に優しいスープも用意したよ。骨から出汁をとったスープだから、美味しいと思う」

 男性の説明を聞きながら、私は小鼻をヒクつかせる。

「さぁ、そろそろ最初に焼けた肉が冷めた頃だよ」

 彼の声を聞き、私はあーん、と口を開く。

「まだ熱いかもしれないからね、気をつけて」

 唇の近くに熱気が迫ったかと思うと、口内に一口大にスライスされた肉が入れられた。

 咀嚼すると甘塩っぱい焼き肉のタレと一緒に、肉の旨み、脂が口中に広がっていく。

 弾力のある肉を奥歯で噛み、さらに小さな欠片にし、繊維を千切るようにすりつぶしていく。

 柔らかくなった頃に嚥下すると、この上ない満足感が私を満たした。

「はぁ……」

 吐息をつくと、男性は次の肉を口に運ぶ。

 沢山肉を食べて口の中が脂っぽくなった頃、「スープを飲もう」と言ってくる。

 鍋からお玉を使ってスープを注ぐ水音が聞こえ、陶器の器と蓮華がぶつかる硬質な音がする。

 ふぅー、ふぅー、と冷ます音がしたあと、口元に蓮華が運ばれた。

 私はずずっ、ずっ、と音を立ててスープを啜り、コクのあるそれをゴックンと嚥下する。

 味わい深いスープが味覚を刺激し、同時に口の中の脂っぽさを洗い流してくれた。





 翌日も、翌々日も、その次の日も、私は沢山の焼き肉を食べた。

 食感からしてホルモンやハツ、色んな部位を食べた。

 焼き肉を食べ終えたあとは、毎回デザートとしてスティック状の物を揚げ、砂糖をまぶした物を食べさせてもらった。

 前歯で噛むとポクポクとクッキーみたいに崩れるそれは、食感が面白い。

 デザートは食事の最後に一つだけだったので、合計十日だったろうか。



 すべてを食べ終えた頃、私の体には腕と脚が生えていた。

 胴体にも違和感があり、若干胸のサイズが変わったようにも思えた。



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