日下部とふたり、休憩室のベンチに座る。正面の窓からはキレイになったベア太郎たちが見える。表情が変わるはずはないのに、どことなく嬉しそうに見えるから不思議だ。
テーブルにはカフェオレの入った紙カップが並び、湯気が薄く溶けていく。はっきりと泣いたわけではないけれど、いろいろ見られていたことがいまになって恥ずかしくなる。視線を合わせられず、水面を見つめるように顔を俯けていると、不意にあたたかな柔らかさが降ってきた。
「よかったね」
ふわりふわりと優しく頭を撫でられる。麻生さんにされたときとは違う。安堵よりもくすぐったさが降り積もり、同時に切なさに似た痛みが染みだす。
「やめろよ」
振り払えば、あっさりと手は離れていく。
「八神くん、頑張ってたから」
子ども扱いするな、とか。なんで上からなんだよ、とか。言いたい文句は浮かぶのに、どれも声にならない。頭に触れたのはほんの数秒にも満たない時間なのに、胸の内側が揺れ続ける。
「泣いてもいいよ」
「泣かないし」
「じゃあ、肩貸してあげる」
「だから」
カップを手に取った日下部が、俺とは反対方向へ顔を向ける。
「俺はなにも見えないからさ」
窓に映ってるし、とは言えず、カップを両手で包む。熱がじんわりと染みてくる。
「……ありがと」
そっと体を傾ければ、日下部はなにも言わない。触れている肩からゆっくりと体温が流れ込む。室内には壁時計の秒針だけが響く。静かだな、と目を閉じる。ドクドク、と心音は緊張を訴えているのに、心は緩んでいく。矛盾する感覚に心地よさを覚え始めたとき、触れていた肩の反対側、左の肩からも同じ温度が流れ込んできた。
え、と微かに瞼を上げれば、窓に映る俺と日下部の姿が見える。さっきよりも心音が大きく響く。けれど、体は動かない。わずかにでも動いたら終わってしまう気がして。「なんで」「どうして」と言葉は回るが、口には出せない。
日下部に肩を抱かれたまま、俺はさっきよりも強く瞼を閉じた。
テーブルにはカフェオレの入った紙カップが並び、湯気が薄く溶けていく。はっきりと泣いたわけではないけれど、いろいろ見られていたことがいまになって恥ずかしくなる。視線を合わせられず、水面を見つめるように顔を俯けていると、不意にあたたかな柔らかさが降ってきた。
「よかったね」
ふわりふわりと優しく頭を撫でられる。麻生さんにされたときとは違う。安堵よりもくすぐったさが降り積もり、同時に切なさに似た痛みが染みだす。
「やめろよ」
振り払えば、あっさりと手は離れていく。
「八神くん、頑張ってたから」
子ども扱いするな、とか。なんで上からなんだよ、とか。言いたい文句は浮かぶのに、どれも声にならない。頭に触れたのはほんの数秒にも満たない時間なのに、胸の内側が揺れ続ける。
「泣いてもいいよ」
「泣かないし」
「じゃあ、肩貸してあげる」
「だから」
カップを手に取った日下部が、俺とは反対方向へ顔を向ける。
「俺はなにも見えないからさ」
窓に映ってるし、とは言えず、カップを両手で包む。熱がじんわりと染みてくる。
「……ありがと」
そっと体を傾ければ、日下部はなにも言わない。触れている肩からゆっくりと体温が流れ込む。室内には壁時計の秒針だけが響く。静かだな、と目を閉じる。ドクドク、と心音は緊張を訴えているのに、心は緩んでいく。矛盾する感覚に心地よさを覚え始めたとき、触れていた肩の反対側、左の肩からも同じ温度が流れ込んできた。
え、と微かに瞼を上げれば、窓に映る俺と日下部の姿が見える。さっきよりも心音が大きく響く。けれど、体は動かない。わずかにでも動いたら終わってしまう気がして。「なんで」「どうして」と言葉は回るが、口には出せない。
日下部に肩を抱かれたまま、俺はさっきよりも強く瞼を閉じた。



