『まったく! ガキが色気づいてるんじゃないの!』
バシッと頬が叩かれ、熱を持つ。
一瞬頭がクラッとするほど強い力で頬を叩かれ、私は乱れた髪の間から母を睨んだ。
母は憎しみが籠もった……と言っていい目で私を睨み、語気荒く言う。
『なんなの! その目は! 何か言いたい事があるなら言いなさい!』
『……っ、好きな人ができたぐらいで何なの!? お母さんだって結婚して子供を産んだくせに!』
口答えをすると、再び頬――、というより頭を叩かれた。
『何を想像してるの! いやらしい!』
母はそのあとも何度も私を叩き、ついには蹴ってきた。
ごめんなさい、なんて言わない。
私はただ、同じ中学の同級生を好きになっただけだ。
告白もしていないし、まだ友達同士の感覚で一緒に帰っただけ。
なのに偶然母に見つかってしまい、烈火の如く怒られた。
今後、もうあの子は私に近づかないだろう。
こっちは失恋確定で悲しんでいるというのに、母は単なる所有欲で私を罰している。
『お母さんなんて大嫌い!』
涙混じりに叫ぶと、一際強く頭を叩かれた。
『お前なんて産むんじゃなかった! 子供は圭太だけで十分!』
『知るか! クソババア!』
圭太は四つ年下の弟だ。
姉の私は何をしても母からの当たりが強く、母は弟だけを溺愛している。
そんな母親、私だって願い下げだ。
私と母は常に憎み合っていた。
大人になってから知ったのは、母はお見合いで父と結婚し、夫婦間は常に冷え切っていたとの事だ。
物心ついた時から父は私に冷たく、外でお酒を飲んでは母ではない女性と一緒にいた。
浮気された母は、行き場のない感情を私に叩きつけるしかなかったのだ。
愛情も、独占欲も、憎しみも、何もかも。
母は父を愛したかったのに愛し返されず、なのに子供はできて、その子を素直に愛せばいいのか分からずにいたのだろう。
私は両親の子ではあるけれど、愛の結晶ではない。
そして母は父が望んだ〝男の子〟を〝子供〟とし、私の事は〝子供ではない何か〟と決めたようだ。
母は圭太には普通の母親らしく振る舞い、好物のカレーやハンバーグを作って『美味しい?』と尋ねている。
私が何を食べても感想を聞かず、怪我をしても無視。
病気をした時に病院へ連れて行くのは、そうしないと世間的な母親としての体面を保てないからだ。
運動会の応援をするのは弟だけ。
三者面談では弟の事だけを熱心に聞き、私の時は気のない様子。
そんな育てられ方をされた私が、まともな女に成長する訳がない。
母は私を愛していない。
大切なのは圭太だけ。
なのにどうして?
どうして、私が好きになった男の子をスコップで何度も殴りつけるの?
格好いい顔がグチャグチャになっても、鬼女のように顔を歪めてスコップを叩きつけるのはどうして?
私が彼を好きになったから、私への嫌がらせでそんな事をしたの?
それとも……、私に近づく男が許せなかった?
私は母が狂ったように男の子を叩き殺し、布を巻き付けて縛り、ブルーシートに包んで車のトランクに押し込むのを、ただ見守るしかできなかった。
その後、その子は行方不明となり捜索願が出されたが、どこに埋められたのか、彼が発見される事はなかった。
『男なんて好きになっても裏切るんだから、最初から好きになんてなるんじゃない。もしも好きになるなら、絶対に自分を裏切らない人にしなさい。それに簡単に体を許したら、すぐに自分のもの扱いしてつけ上がるわ。そんな種馬、ちょん切ってしまえばいい』
珍しく母が穏やかに過ごしている時、彼女は庭木の剪定方法を私に教えながらそう言った。
彼女は最後に静かな怒りを込め、バチンッと枝を切り落とす。
『いい? 女は弱いから男に取り入るしかできないの。私は学がないしお父さんに捨てられたら生きていけないから、仕方なく家にいる。でも女は弱くて卑しいから、他人のものに手を出して優越感に浸ろうとするものでもあるの。女は寄生虫よ。……あんたは絶対にそういう女になるんじゃない。男に捨てられたくないなら、一人でも生きていける強さを手に入れなさい』
母は私と圭太が成人したあと、父と浮気相手を〝剪定〟して捕まり、精神病院に入って二度と会えなくなった。
バシッと頬が叩かれ、熱を持つ。
一瞬頭がクラッとするほど強い力で頬を叩かれ、私は乱れた髪の間から母を睨んだ。
母は憎しみが籠もった……と言っていい目で私を睨み、語気荒く言う。
『なんなの! その目は! 何か言いたい事があるなら言いなさい!』
『……っ、好きな人ができたぐらいで何なの!? お母さんだって結婚して子供を産んだくせに!』
口答えをすると、再び頬――、というより頭を叩かれた。
『何を想像してるの! いやらしい!』
母はそのあとも何度も私を叩き、ついには蹴ってきた。
ごめんなさい、なんて言わない。
私はただ、同じ中学の同級生を好きになっただけだ。
告白もしていないし、まだ友達同士の感覚で一緒に帰っただけ。
なのに偶然母に見つかってしまい、烈火の如く怒られた。
今後、もうあの子は私に近づかないだろう。
こっちは失恋確定で悲しんでいるというのに、母は単なる所有欲で私を罰している。
『お母さんなんて大嫌い!』
涙混じりに叫ぶと、一際強く頭を叩かれた。
『お前なんて産むんじゃなかった! 子供は圭太だけで十分!』
『知るか! クソババア!』
圭太は四つ年下の弟だ。
姉の私は何をしても母からの当たりが強く、母は弟だけを溺愛している。
そんな母親、私だって願い下げだ。
私と母は常に憎み合っていた。
大人になってから知ったのは、母はお見合いで父と結婚し、夫婦間は常に冷え切っていたとの事だ。
物心ついた時から父は私に冷たく、外でお酒を飲んでは母ではない女性と一緒にいた。
浮気された母は、行き場のない感情を私に叩きつけるしかなかったのだ。
愛情も、独占欲も、憎しみも、何もかも。
母は父を愛したかったのに愛し返されず、なのに子供はできて、その子を素直に愛せばいいのか分からずにいたのだろう。
私は両親の子ではあるけれど、愛の結晶ではない。
そして母は父が望んだ〝男の子〟を〝子供〟とし、私の事は〝子供ではない何か〟と決めたようだ。
母は圭太には普通の母親らしく振る舞い、好物のカレーやハンバーグを作って『美味しい?』と尋ねている。
私が何を食べても感想を聞かず、怪我をしても無視。
病気をした時に病院へ連れて行くのは、そうしないと世間的な母親としての体面を保てないからだ。
運動会の応援をするのは弟だけ。
三者面談では弟の事だけを熱心に聞き、私の時は気のない様子。
そんな育てられ方をされた私が、まともな女に成長する訳がない。
母は私を愛していない。
大切なのは圭太だけ。
なのにどうして?
どうして、私が好きになった男の子をスコップで何度も殴りつけるの?
格好いい顔がグチャグチャになっても、鬼女のように顔を歪めてスコップを叩きつけるのはどうして?
私が彼を好きになったから、私への嫌がらせでそんな事をしたの?
それとも……、私に近づく男が許せなかった?
私は母が狂ったように男の子を叩き殺し、布を巻き付けて縛り、ブルーシートに包んで車のトランクに押し込むのを、ただ見守るしかできなかった。
その後、その子は行方不明となり捜索願が出されたが、どこに埋められたのか、彼が発見される事はなかった。
『男なんて好きになっても裏切るんだから、最初から好きになんてなるんじゃない。もしも好きになるなら、絶対に自分を裏切らない人にしなさい。それに簡単に体を許したら、すぐに自分のもの扱いしてつけ上がるわ。そんな種馬、ちょん切ってしまえばいい』
珍しく母が穏やかに過ごしている時、彼女は庭木の剪定方法を私に教えながらそう言った。
彼女は最後に静かな怒りを込め、バチンッと枝を切り落とす。
『いい? 女は弱いから男に取り入るしかできないの。私は学がないしお父さんに捨てられたら生きていけないから、仕方なく家にいる。でも女は弱くて卑しいから、他人のものに手を出して優越感に浸ろうとするものでもあるの。女は寄生虫よ。……あんたは絶対にそういう女になるんじゃない。男に捨てられたくないなら、一人でも生きていける強さを手に入れなさい』
母は私と圭太が成人したあと、父と浮気相手を〝剪定〟して捕まり、精神病院に入って二度と会えなくなった。



