それからの日々は、彼に言わせるとlove=hateの日々だった。
批判
この一年、彼に何があったのかわからない。この一年の彼を知らない。
でも、この一年、彼は変わってしまっていた。
私の心、心の声を、全部「批判」と捉えるようになっていた。
私はずっと聞いて欲しくて。
彼はずっと「批判」されていると感じて反発してくる。
私は会話がしたくて。彼は逃げ惑う。
どうやって歩調を合わせればいいのか、わからなかった。
結局言語じゃなかったんだと思い知らされた。
私たちが共通語しか知らなかった時、彼は共通語じゃうまく話せないと下を向いた。
今、この数年頑張って勉強したから、少しなら彼の国言葉がわかるようになった。聞き取りはまだまだ苦手だけど、読む分にはほとんど理解できるようになった。
共通語を使ったら、共通語で話したくないという。
彼の国言葉を頑張って使ったら、余計疲れるとそっぽを向く。
じゃあ彼だけが彼の国言葉を使ったらいいというと、話したくないと黙り込む。
私がここに来たのも、遠距離じゃ感じられないと言われ。
ハグ一つで解決できるって言うから。そんな距離にいたいと思ったから来たけれど。
彼の言い訳を全部トライして、全部封じ込めた気がした。
頑張って頑張って先に先にと足を進めていったけれど、そこは暗い行き止まりだった。
否定
私はまだ「私たち」を諦めたくなくて。まだ行けるんじゃないかって。まだ一ヶ月じゃないかって。まだ二ヶ月じゃないかって。まだ三ヶ月じゃないかって。言い続けてた。
何も話せてなかったから。心と心の会話がしたかったのに、彼の心がもう見えなくなっていた。
そしてこの夜、彼は私の全てを、私たちの全てを否定した。私から逃れるために、全てを否定した。
昔、一緒にあの小さな街で道を歩いていた時。私はずっと立ち止まって、全く動かない牛を見つけた。あまりにも動かないから、「大丈夫かなぁ。あの子は何を考えてるのかなあ」って彼に聞いた。そしたら、彼は笑いながら、「あれは牛であって人間じゃないから大丈夫だよ」と言って、私を抱きしめてくれた。あの時の彼は、私のことを「牛のことも気にするバカな奴」だとからかいながらも、その私の気遣いの広さに引かれていたと思う。
でも、今日彼は「もう考えるな、話すな」と、私のその「気遣い」を否定した。考えすぎだと。もう彼のことを気にするなと考えるなと。
あの街から帰る日の前日、友達たちがまとめてメッセージカードをくれた。そこには、彼からのメッセージもあって、彼は、私が「純粋で、優しい」って書いていてくれた。でも、今日、彼はそれを「単純で世間知らずだ」と言い換えた。
今までは「忍耐強く待っていてくれて、離れないでいてくれてありがとう」だったのが、「しつこくてうざい奴」に変わっていた。一緒に「こんな将来が欲しいね」って言えていたのが、「理想主義者だ」と言われて終わった。
何をしにここに来たのか、もう私には本当にわからない。ただ、ずっと話したかった。向き合って欲しかった。こんなふうに否定だけされるなんて。彼が「いい」と言ってくれた、私のすべてが、「悪い」部分に変わっていた。
否定されるためにこの国に来たんじゃないのに。なんのためにここに来たのか。
泣いて、二人とも大きな声を出して怒鳴りに怒鳴って。
彼は話にならないとシャワーを浴びに行った。私は泣いて泣いて、気分が収まらなくて。どうしようもなくなってマンションの屋上に行った。
そこかは静かで、春の風が心地よく。もう真夜中なのに、幾つかの部屋にはまだ明かりがついていた。眼下の街並みは静かで。人はまばらに道をまだ歩いている人がいて。車も時間を置いては、一台、また一台とまばらに運転されている。
以前川沿いで大声を出して泣いている女の子がいた。彼は彼女のそばで立ち止まって、彼女が叫んでいる内容を聞こうとした。私はそのまま先に行こうって言ったけれど、彼は何を言っているのかを聞いて、聞いたら助けられるかもしれないと言って少しの間動かなかった。多分助けたいよりも好奇心が本当のところだったのだろうけれど。結局何を言っていたのか分からなかったみたいだったけど。
そんな見知らぬ女の子を助けられるんだったら、私を助けてよ。私の声を聞いてよ。否定するために来たんじゃないのに、なんでここに来たんだろう、なんでここにいるんだろうっていう想いがずっとぐるぐる頭を回っていた。
携帯に目を落とすと、彼から連絡が来ていて。「ごめん、どこに行ったの」って来てたけど、返す余裕もなくて、そのまま眼下に目線を戻した。
こういう時、ドラマだったら飛び降りたりして。でも、もう見えてしまっている。私がここで飛び降りたところで、彼の苦しみは一時期だけだ。それかこんなにも嫌っているのだから、もうあまり何も感じないのかもしれない。そういうものだと、流されるかもしれない。
たとえ彼が傷ついたとしても、私の悲劇なんて次の女を見つけるための道具になるだけだ。なんでこの年まで結婚していないの、と彼が聞かれ、以前の彼女が、、、と話をする。そしたら相手は気の毒に思うのだ。私じゃなくて、彼を気の毒に思って、愛を彼に与えようとする。
ふざけるな、そんな彼の道具のストーリーになんてなってやるものか。
そんなことを考えていたら、なぜか彼が屋上にやってきてしゃがみ込んでいた私を立たせた。「こんなところで何やってるの、携帯は」と言われて、手に持っていた携帯を見せた。その後彼は何度か電話をしてきていたようだった。
彼は帰るよと私の腕を持って歩こうとした。
私が飛び降りたら危ないと言って。
彼は私の斜め後ろを歩こうとして。怖かった。
彼に背後を取られたくなかった。見せたくなかった。前は彼が後ろにいることが、安心感につながっていたのに。バスやで電車で寝顔を見せられる関係だったのに。なのに、今は、こんなにまでなってしまった。
彼に先を歩いてもらって、私はトボトボと彼の後ろを歩いて部屋に戻った。部屋に帰ったら彼はすぐ寝ると言って部屋に入ってドアを閉めてしまった。
なんなら今もう一度屋上に行って飛び降りてやろうかと思ったけど、やっぱり彼の後悔は一時的にしかならない気がして、無駄死にだと思いやめておいた。
親
私たちがこんな関係になってしまったのは、大きな皮肉だ。
互いにこの数年、何度も親について、家族について話、子供の頃の傷を見せ合ってきた。全部曝け出してたんだ。全部私の過去も知っているはずなのに。一緒に私たちの両親みたいにはなりたくないって言い合ったのに。
私は大声が苦手で、大きな声で抑圧されると感じるたびに涙が止まらなくなる。彼は他人に人生を指図されるのが嫌いで。
互いにそのことを考慮し合わず、考慮し合う余裕もなく、彼は大声で発散しなければならくて。私は自分の気持ちを守るためにこうして欲しいと伝えようとしていて。
互いに自分を守ろうとして、互いを傷つけあっていた。
私の両親と変わらず、顔を見ると喧嘩をしてた。
話したいだけなのに、それが彼を刺激して、いら立たせる。
過去のトラウマを全部思い出させてくれた。聞いて欲しくて言うのに。結局全部喧嘩に繋がる。拒絶されるに終わる。一番なりたくない両親と同じサイクルに入り込んでいて。
それがものすごく怖かった。喧嘩して、お互いに聞き合えない状態。私の親たちと一緒。
深く分かち合い、本当に近づくこと
誤解されて、否定されて、離れられて、傷つけられて。それでも、私は決して「私たち」を否定しなかった。決して彼に対して「嫌いだ」とも、「愛してない」とも、言わなかった。
でも彼は何度も言った。「好きじゃないものは好きじゃない」って。
「健やかなる時も、病める時も」って言うじゃない。疲れているだけで、愛せないのとは違うんじゃないかって。時間をくださいって反発した。「昔愛し合っていたんだから」って。
そしたら彼は、「それは夢だ。愛してなんかいなかった」と、とても厳しい顔で、吐き捨てた。
これまでの5年間。そのうちの、そうだね、初めの一年は愛じゃなかったと思う。初めの一年は、私の方があなたのことが好きで、あなたにとっての私は、異国での寂しさを埋める道具だったのかもしれない。あなたが他の女の子にも声をかけてたのも知ってる。
でも、離れ離れになって、君の周りの人が一人一人と帰国していって。そんな風に、今までの日々の当たり前が消えていった時、私との日々を思い出してくれたんじゃなかったの?そこからの一年は遠距離で。辛かったけど、その分会えた時の嬉しさと、尊さと。それは全部まだ私の心に残っているよ。
私、鼻がいいから。あなたが建前で言う時と、本当に悩んで迷っている時と。私を見ている時と、他を考えている時と。わかるから、匂うから。あの日々は本当だったと信じてる。あなたがハグをくれた日、本当に神様が導いてくれていたんだと感じた日。あの日からの日々は、本物だった。
それをあなたは全部否定した。
私の人生に、やっと私を見てくれる人が現れたと思ったんだ。私のいいところも、悪いところも見て、それでもいいんだって。一緒にゆっくり歩いて行こうって言ってくれた人に出会えたんだと支持てた。そんな人に出会えることはもうないかもしれないし、それぐらいに奇跡なんだって大事にしていた人だったから、ショックで心臓がまた痛かった。
それから、私は、誰も愛してくれない、誰も私なんて愛せなくて。いるだけで周りを喧嘩させてしまう存在なんだと、子供の頃と今とを行き来しながら、何度も暗い夢を見た。
彼に否定さえれる夢。愛してなんかなかった、全部嘘だ、誰が私みたいなやつを愛せるんだと言われる夢。
子供の頃、私がいるところでは両親が喧嘩していて、私がいなくて、弟との3人家族だと仲良く3人で笑っている夢。
彼と一緒に成長してきたこの数年、誰かを笑顔にできるって。誰かと暖かい家庭を築けるって、私だからこそ優しさを与えられれる夢を見たんだけれど、それが全部嘘のようで、そんなものはありえないという暗さが心を覆っていた。
そんな妄想があった分、彼の二人の日々を否定する言葉に絶望した。けれど、私は決して彼と一緒に否定しなかった。
今、二人の関係が壊れているのは知ってるし、同意見。でも、これまでの二人の関係は確かにそこにあって、全部が全部嘘ではなかった。一緒にいっぱいたくさんのところに行った。一緒にたくさんのご飯を共にした。一緒に笑い合って、一緒に成長していた。彼の変化が嬉しかった日々は、彼が言葉も行動もどちらもくれた日々は、確かにそこにあったから。
あなたの前でだけ泣けたの。たくさん泣いた。その時は、心をこんなにも開ける人ができたのだと喜んだ。今は、いいことなのか、悪いことなのか。もうわからない。
愛し愛されると言うこと
彼は私が泣くたびに、こう叱責した。「君が人生をコントロールするのだから、君が君の人生のリーダーなんだから」と。「泣くな、子供じゃないんだから」と。
愛しに行ったんだ。私の意志で。愛を欲していた彼に。彼に必要なのは、認められること。いっぱいありがとうって伝えた。素直に私が悪い時はごめんって言った。
昔は受け止めてくれたけど、ありがとうは水臭い、ごめんはごめんで終わるなら警察いらないと今は言われるだけだ。
好きで、信頼して、見せに行ったんだ。私の全てを。子供の頃の嫌な記憶も、たまに見る悪夢も、両親の毎日の喧嘩の暗闇も、私の好きも、私の嫌いも、全部、心をしっかり開いて、本当の、全部の私の心の奥底を見せに行った。
私たちの関係が壊れても、私はそれを止めなかった。止め方がわからなかった。全部見せたのに、全部知っているはずなのに、それを全て棚に上げて、見ないで、私を責め否定し続けるあなたを止めたくて、私は私を見せ続けた。
ううん、途中から私があなたにシェアする量は減っていった。話したいことがあって、スマホを手にする。そして考える。テキストを送ろうかなって考える。でも、あなたの歪んでイラついた顔が浮かんで、それ以外の顔を思い浮かべたくてじっと考え込むのだけれど、他の顔が思い浮かばず、そのまま静かに携帯を下に置く。
なのに、家に帰って、沈黙が耐えられなくて、話してしまう。怒られるだけなのに。「あ?」って歪んだ顔で言われるだけなのに。
インフルエンザ
インフルエンザになった。朝、調子悪いなぁと思っていたら、昼には熱が出てきた。会社に連絡して、休みをもらう。彼にも念の為に「熱があるから休む」って連絡を入れた。
お粥をデリバリーして、結局届く頃には体が重くなってきていたから一口だけ食べてベッドに入った。彼に「熱があるから、果物帰りに買ってきて」って頼んだ。「OK」とだけ返ってくる。熱が上がってくるのを感じたから、熱冷ましの薬を飲んだ。何かしようと携帯を開いたけれど、意識が重いからそのまま寝た。
2時ごろにまた熱を測ったら、38度以上にまで熱が上がっていて。彼に「帰ってきた時、まだ熱があったら一緒に病院に行って」ってお願いした。
その後、熱冷ましを飲んでるのに熱はどんどん上がってきて、呼吸も苦しくなってきた。彼に「やっぱり自分で病院に行くから、どの病院に行ったらいいか教えて」ってテキストを入れる。もうその時点で頭は朦朧としていて、自分で調べる力は残っていなかった。
待っても連絡は返ってこないし、でも「仕事中かもしれない」って思って、「あんまり邪魔したら怒られる」って思って。耐えてたけど、だんだん熱が上がってくのを感じて、熱があるのに血の気が引いていく感じもあって。手も小刻みに震えてくるし、呼吸も定かじゃなくなってきた。
「このままだと、ここで一人でブラックアウトしてしまう。誰もいない部屋で、彼もいつ帰ってくるかわからないのに、ブラックアウトしちゃったら死んじゃう」
そう、死の危険を感じて、彼に電話した。
「ハロー」って言ったら、「病院だろう、今調べてるから」と、とても不機嫌な声が返ってきた。彼がこの時何をしてたのか、仕事中だったのか、何も知らない。
何も知らないけど、今まで突然電話をかけるなんて、本当に何かあった時にしかかけなかったのに。テキストでのやり取りはいっぱいしてたけど、邪魔したこともあっただろうけど、電話で突然邪魔するなんてほぼなかっただろうに。
そして今、熱がとても上がっていることも伝えてたのに。なのに、彼の第一声はとても不機嫌だった。
ただ、「そう、ありがとう」とだけ伝えて、電話を切る。ただ、低くて不機嫌な声だけが頭に残った。「どうしようかな」とか「このままだったらどうしよう」とか、そんなことを考えるよりも、その絶望感が脳裏にこびりついた。
幸いなことに、その短い間に私の異変に気付いた彼は、すぐ電話を掛け直してきた。呼吸がとても荒くなっていたから。息ができなくなりかけてたから。
「病院のリンクを送る。ここに行け」と。救急車呼んだら、呼んだほうがいいって言われたけど、とりあえずそのまますぐ地図アプリでタクシーを呼んで、そのままコートだけ引っ掴んでスリッパのまま外に出て行った。
呼吸も浅くなってるし、足元もフラフラしたけど、壁にもたれながら階段を降りて、なんとかタクシーにまで辿り着いた。火事場の馬鹿力で、この頃にはもう少し意識がしっかりしてた。「鍵は持ってたけど、鍵を閉め忘れた」って彼にテキストして。彼も「着いたら救急に行け」って指示してくれた。
病院に着いて、フラフラととにかく一番近くの病棟に入って。翻訳アプリに「熱があります」って入力したら、すぐ機械で熱を測ってくれた。ただでさえフラフラなのに、違う言語でやり取りできる気力も余裕も残ってなかった。
40度近くあったから、そのまま一緒に隣の病棟まで連れて行ってくれた。「着いたって、診察してくれる」って、テキストして。この頃には、ちゃんと送ったらすぐテキストを返してくれていた。
そのままインフルエンザの検査をすぐしてくれたけど、結果が出るまで数時間待たないといけないという。寒くて、「毛布持ってきて」って言ったら「オッケー」ってだけ返ってきて。携帯の充電もないって言ったら、「レンタルしろ」って。「いつ来てくれるの」って聞いたら、「夜の8時」って。
死にかけてるのに。頭が朦朧としてて、本当に外国語で会話する力も理解する力もなくなっているのに。彼は来てくれなかった。
待ってる間にまた熱が上がってきて。「体が震える」って、「熱で制御が行かない」ってなんていうの、って聞いて、頑張って声を出して看護師さんを呼んだ。
また意識が朦朧としてきてたから。スマホの画面見せて。看護師さんはまた体温計持ってきてくれて。40度以上あって。「落ち着いて、ゆっくり呼吸しろ」って言われて。落ち着かせてくれて、熱冷まし、すぐ飲ませてくれた。その後はよく分からないまま、薬出して、帰らされた。
薬を受け取って、フラフラしながらタクシー呼んで、家に帰った。本当に、一人でよくやったと思う。
彼は帰ってきた時、何も買ってきていなくて。食欲全くなかったからいいけど、本当に何も気にしてないんだな、と落ち込んだ。
トイレに行ったら、「ちょっとは体調良くなったか」と。自転車を少しの間整備するのを手伝わされた。
熱下がってないし、本当にしんどかったんだけど。そしてベッドに戻って寝てたら、また体調が悪化してきたのを感じた。血の気が引いていく感じ。
彼を呼んで、砂糖水を作ってもらう。また、とてつもない面倒を押し付けられて、と言うような顔を彼はしていたけれど、私はもう本当に動けなくなりかけていた。
彼が作って持ってきてくれた時には、もう体は小刻みに震えて、制御が効かなくなっていた。そのまま「飲ませて」って言って、飲ませてもらって。何口かそのまま飲んで、寝かせてもらった。ただ、体は重いのに、寒くて、小刻みに震える手を制御することはできなくて。
「病院行く?」って聞かれたけど、病院に行ったところで彼らにできることはないってわかってたから、「行くだけ無駄だ」って言った。熱を測ったら、まさかの37度で。きっと熱冷ましが効き始めていたんだと思う。感覚では熱はまた、病院にいた時と同じように40度以上になっていた。
このままだと意識が飛びそうで、呼吸が乱れそうで怖かったから、「手を握って」ってお願いした。どれぐらいの時間かはわからないけど、寝る時間になるまでは手を握ってそこにいてくれた。
ずっと携帯見てて、私を見てくれてなかったけれど。「もういい?」って聞かれて、「まだいて」って駄々をこねた。駄々ってわけでもない。本当に、何かにつながっていないと、意識がブラックアウトしそうだった。「でももう明日も仕事だし、寝ないと」って言われて。「何時?」って聞いて。遅い時間だったから、「わかった」って頷いた。
「明日の朝、生きてるか確認しにきてね」って言って。半分冗談で、半分本気でお願いしてた。彼は「夜中、通知オンにしてるから、なんかあったら電話かけてきていいよ」って言ってくれた。そのまま眠りに落ちて…。
朝起きたら、落ち着いていた。彼も生存確認しにきてくれて、「なんかあったら連絡して」とだけ言って、すぐ会社へ行った。最低限の心配り。
数日後か一週間後、彼は体調が悪いと言った。
私は朝、バナナとりんごと他の果物を買いに行って、ジュースとか飲み物をたくさん買った。インフルエンザの怖さは身をもって知っていたから。
でも彼の「しんどい」は、ただの少しの体調不良で。熱もない。次の日、普通に仕事に行った。その日彼が休みだったのは、風邪をひいたからじゃなくて、ただ彼の休日がその日だったかららしい。ただの私の早とちり。
仕事中も大丈夫って聞こうかなと思ったけれど、鬱陶しがるだろうと思ってテキストしなかった。これら全部が、私の最低限の思いやり。
新しい彼女
そんな日々の中で一ヶ月、彼に彼女ができた。彼と彼女の関係は一ヶ月だけだった。でも、彼が彼女とテキストを送りあったり、電話したり。全てが神経に触った。
わざわざ家に電話かけてくる彼女の気がしれなかった。私たちがまだ同じところに住んでいるのを知っていて、わざわざ電話をかけて。テキストでも終わるような内容を。
テキストを送りあって、ドキドキしてる彼。その先にいたのは私なのに。私たちの恋愛を取り合っていた頃の感覚が蘇って、無性に苛立った。
彼は、彼女は彼のことを「理解できる」から、と言った。彼がそう言うのを聞いて、とても悲しくなり、怒りを感じた。
理解する? 君のことを? 私は君のことを理解していなかった? 許していなかった? 毎回毎回、私は自分のチャンスを捨てて、君を信じた。
「理解する」って、とても簡単だ。私にもそんな親がいる、君の悲しみ、責任感、複雑な気持ちを理解する、って言うのは簡単だ。毎回毎回、私は君の制限を理解し、許し、そのような制限のある環境で、どうやって私たちが暮らしていけるか考えてきた。君は私の話を聞き、私の気持ちを感じ取ってはいるが、頭と心を使って、本当に理解しようとはしなかった。
私がここに来たのは、私たち二人で未来を考えたいと思ったからだ。ただ君に従うだけじゃなく、一生、君の横にいたいと思ったからだ。ただ君にお願いした。私に少しの優しさと時間をちょうだい、と。それさえ、君は私に与えてくれなかった。
私は理解できる。親の前でのプレッシャーと無力感を感じ取ることはできる。でも、ずっと無視され続ける感覚を受け入れ続けることはできない。一度でいいから、大切にされたい。優先されたい。
彼女は20歳そこそこで、大学を卒業したばかりだって。あの頃の私なら、きっと彼女より君のことを知っていた。それでも君を理解することを選んだ。
君はご飯を食べるとき、犬みたいに食べてた。手で皿を持ち上げず、顔をテーブルに近づけて食べる。
箸は上手だけど、ナイフとフォークの使い方は知らない
君は自分が田舎出身だって人に言わない。首都出身だって言う。
君の機嫌は悪くなりやすい。お腹が空いたり、体調が悪いと、すぐ怒り出す。
君の体は疲れやすい。あの頃の君の背中は丸まっていた。
春節の実家。男は女を手伝わない。まだ男尊女卑だ。
君は自分はユーモアがあるって言うけど、実は、私は君が思っているほど面白くないと思ってる。
君は自分はかっこいいって言う。私は顔を見ない。君が優しく笑ってくれさえすればいい。
なんで君が好きだったのか、もう私にも本当にわからない。ただ、君がとても敏感で、私の不快感に気付いてくれたから。私がまだ大丈夫なのか、もう限界なのかを知ってくれたから。私が本当にダメなとき、君がここにいてくれて、私をありのままの私でいさせてくれた。だから、君が好きだった。
今、君は私が君を責めていると思っている。時にはそうだった。でも、ほとんどの場合、私はただ私の感情を発散させたかっただけ。私は君に私のそばに座っていてほしかった。私に寄り添っていてほしかった。ただそれだけを願った。あとは、君は君で、私は私で、それでよかった。
「理解する」って、簡単だ。自分の傷を口にすることは、まあできる。彼は自分の傷を知っている。でも、そんなことお構いなしに、自分の親と同じ行動を始める。それでも私たちはコミュニケーションを取れると願う。それでも否定される。「次はうまくいくといいな」と願えば、「俺に期待するな」と言われる。
私が他の人に自分の傷を見せたのは、彼が初めてだった。彼が尊重してくれると信じて打ち明けていた。
彼が私の傷を無視し始めた時、どうしたらいいかわからなかった。私はただ、「私は傷ついていて、力がないから、少し時間をください」と懇願してた。だって、あなたには私の傷を癒す力がないことも、あなた自身の傷を癒す必要があることもわかっていたから。
君の横にいるということは、私一人で、あなたと私の両方をcareしなければならないこともわかっていた。
私に力がある時は、それができた。今は本当に力がない。もうたくさんの血を失って、誰かにその血を少し分けてもらう必要がある。それでも君を理解するには、まず脳に血を送らなければならない。私はきっと彼女より君のことを理解している。ただ、どうやってこの出血を止めればいいのか、わからない。
部屋
結局部屋にカーテンを買ってもらった。一緒にいたくて、二人の時間を過ごしたくてこだわったリビングで。わざわざカーテンを買って、二人の空間を隔てた。
でも、私が自分から部屋に閉じこもると、彼は何をしてるんだと言いにくる。何度も喧嘩して、何度か彼は本当に私の気持ちなんて気にしてないんだと感じることがあった。気にできないほどに彼も参っていたのだろうけれど。
それで、自分を守ろうと部屋に篭ったことがある。朝ごはんと昼ごはんを部屋で食べようとした。すると彼はやってきて、何してるんだって聞いてくる。そんなとこにいないでリビングで食べていいよって。それだけの良心は朝になると戻っているのだ。
彼の神経は全てを批判と捉えるようになっていて。それだけなのだった。
批判
この一年、彼に何があったのかわからない。この一年の彼を知らない。
でも、この一年、彼は変わってしまっていた。
私の心、心の声を、全部「批判」と捉えるようになっていた。
私はずっと聞いて欲しくて。
彼はずっと「批判」されていると感じて反発してくる。
私は会話がしたくて。彼は逃げ惑う。
どうやって歩調を合わせればいいのか、わからなかった。
結局言語じゃなかったんだと思い知らされた。
私たちが共通語しか知らなかった時、彼は共通語じゃうまく話せないと下を向いた。
今、この数年頑張って勉強したから、少しなら彼の国言葉がわかるようになった。聞き取りはまだまだ苦手だけど、読む分にはほとんど理解できるようになった。
共通語を使ったら、共通語で話したくないという。
彼の国言葉を頑張って使ったら、余計疲れるとそっぽを向く。
じゃあ彼だけが彼の国言葉を使ったらいいというと、話したくないと黙り込む。
私がここに来たのも、遠距離じゃ感じられないと言われ。
ハグ一つで解決できるって言うから。そんな距離にいたいと思ったから来たけれど。
彼の言い訳を全部トライして、全部封じ込めた気がした。
頑張って頑張って先に先にと足を進めていったけれど、そこは暗い行き止まりだった。
否定
私はまだ「私たち」を諦めたくなくて。まだ行けるんじゃないかって。まだ一ヶ月じゃないかって。まだ二ヶ月じゃないかって。まだ三ヶ月じゃないかって。言い続けてた。
何も話せてなかったから。心と心の会話がしたかったのに、彼の心がもう見えなくなっていた。
そしてこの夜、彼は私の全てを、私たちの全てを否定した。私から逃れるために、全てを否定した。
昔、一緒にあの小さな街で道を歩いていた時。私はずっと立ち止まって、全く動かない牛を見つけた。あまりにも動かないから、「大丈夫かなぁ。あの子は何を考えてるのかなあ」って彼に聞いた。そしたら、彼は笑いながら、「あれは牛であって人間じゃないから大丈夫だよ」と言って、私を抱きしめてくれた。あの時の彼は、私のことを「牛のことも気にするバカな奴」だとからかいながらも、その私の気遣いの広さに引かれていたと思う。
でも、今日彼は「もう考えるな、話すな」と、私のその「気遣い」を否定した。考えすぎだと。もう彼のことを気にするなと考えるなと。
あの街から帰る日の前日、友達たちがまとめてメッセージカードをくれた。そこには、彼からのメッセージもあって、彼は、私が「純粋で、優しい」って書いていてくれた。でも、今日、彼はそれを「単純で世間知らずだ」と言い換えた。
今までは「忍耐強く待っていてくれて、離れないでいてくれてありがとう」だったのが、「しつこくてうざい奴」に変わっていた。一緒に「こんな将来が欲しいね」って言えていたのが、「理想主義者だ」と言われて終わった。
何をしにここに来たのか、もう私には本当にわからない。ただ、ずっと話したかった。向き合って欲しかった。こんなふうに否定だけされるなんて。彼が「いい」と言ってくれた、私のすべてが、「悪い」部分に変わっていた。
否定されるためにこの国に来たんじゃないのに。なんのためにここに来たのか。
泣いて、二人とも大きな声を出して怒鳴りに怒鳴って。
彼は話にならないとシャワーを浴びに行った。私は泣いて泣いて、気分が収まらなくて。どうしようもなくなってマンションの屋上に行った。
そこかは静かで、春の風が心地よく。もう真夜中なのに、幾つかの部屋にはまだ明かりがついていた。眼下の街並みは静かで。人はまばらに道をまだ歩いている人がいて。車も時間を置いては、一台、また一台とまばらに運転されている。
以前川沿いで大声を出して泣いている女の子がいた。彼は彼女のそばで立ち止まって、彼女が叫んでいる内容を聞こうとした。私はそのまま先に行こうって言ったけれど、彼は何を言っているのかを聞いて、聞いたら助けられるかもしれないと言って少しの間動かなかった。多分助けたいよりも好奇心が本当のところだったのだろうけれど。結局何を言っていたのか分からなかったみたいだったけど。
そんな見知らぬ女の子を助けられるんだったら、私を助けてよ。私の声を聞いてよ。否定するために来たんじゃないのに、なんでここに来たんだろう、なんでここにいるんだろうっていう想いがずっとぐるぐる頭を回っていた。
携帯に目を落とすと、彼から連絡が来ていて。「ごめん、どこに行ったの」って来てたけど、返す余裕もなくて、そのまま眼下に目線を戻した。
こういう時、ドラマだったら飛び降りたりして。でも、もう見えてしまっている。私がここで飛び降りたところで、彼の苦しみは一時期だけだ。それかこんなにも嫌っているのだから、もうあまり何も感じないのかもしれない。そういうものだと、流されるかもしれない。
たとえ彼が傷ついたとしても、私の悲劇なんて次の女を見つけるための道具になるだけだ。なんでこの年まで結婚していないの、と彼が聞かれ、以前の彼女が、、、と話をする。そしたら相手は気の毒に思うのだ。私じゃなくて、彼を気の毒に思って、愛を彼に与えようとする。
ふざけるな、そんな彼の道具のストーリーになんてなってやるものか。
そんなことを考えていたら、なぜか彼が屋上にやってきてしゃがみ込んでいた私を立たせた。「こんなところで何やってるの、携帯は」と言われて、手に持っていた携帯を見せた。その後彼は何度か電話をしてきていたようだった。
彼は帰るよと私の腕を持って歩こうとした。
私が飛び降りたら危ないと言って。
彼は私の斜め後ろを歩こうとして。怖かった。
彼に背後を取られたくなかった。見せたくなかった。前は彼が後ろにいることが、安心感につながっていたのに。バスやで電車で寝顔を見せられる関係だったのに。なのに、今は、こんなにまでなってしまった。
彼に先を歩いてもらって、私はトボトボと彼の後ろを歩いて部屋に戻った。部屋に帰ったら彼はすぐ寝ると言って部屋に入ってドアを閉めてしまった。
なんなら今もう一度屋上に行って飛び降りてやろうかと思ったけど、やっぱり彼の後悔は一時的にしかならない気がして、無駄死にだと思いやめておいた。
親
私たちがこんな関係になってしまったのは、大きな皮肉だ。
互いにこの数年、何度も親について、家族について話、子供の頃の傷を見せ合ってきた。全部曝け出してたんだ。全部私の過去も知っているはずなのに。一緒に私たちの両親みたいにはなりたくないって言い合ったのに。
私は大声が苦手で、大きな声で抑圧されると感じるたびに涙が止まらなくなる。彼は他人に人生を指図されるのが嫌いで。
互いにそのことを考慮し合わず、考慮し合う余裕もなく、彼は大声で発散しなければならくて。私は自分の気持ちを守るためにこうして欲しいと伝えようとしていて。
互いに自分を守ろうとして、互いを傷つけあっていた。
私の両親と変わらず、顔を見ると喧嘩をしてた。
話したいだけなのに、それが彼を刺激して、いら立たせる。
過去のトラウマを全部思い出させてくれた。聞いて欲しくて言うのに。結局全部喧嘩に繋がる。拒絶されるに終わる。一番なりたくない両親と同じサイクルに入り込んでいて。
それがものすごく怖かった。喧嘩して、お互いに聞き合えない状態。私の親たちと一緒。
深く分かち合い、本当に近づくこと
誤解されて、否定されて、離れられて、傷つけられて。それでも、私は決して「私たち」を否定しなかった。決して彼に対して「嫌いだ」とも、「愛してない」とも、言わなかった。
でも彼は何度も言った。「好きじゃないものは好きじゃない」って。
「健やかなる時も、病める時も」って言うじゃない。疲れているだけで、愛せないのとは違うんじゃないかって。時間をくださいって反発した。「昔愛し合っていたんだから」って。
そしたら彼は、「それは夢だ。愛してなんかいなかった」と、とても厳しい顔で、吐き捨てた。
これまでの5年間。そのうちの、そうだね、初めの一年は愛じゃなかったと思う。初めの一年は、私の方があなたのことが好きで、あなたにとっての私は、異国での寂しさを埋める道具だったのかもしれない。あなたが他の女の子にも声をかけてたのも知ってる。
でも、離れ離れになって、君の周りの人が一人一人と帰国していって。そんな風に、今までの日々の当たり前が消えていった時、私との日々を思い出してくれたんじゃなかったの?そこからの一年は遠距離で。辛かったけど、その分会えた時の嬉しさと、尊さと。それは全部まだ私の心に残っているよ。
私、鼻がいいから。あなたが建前で言う時と、本当に悩んで迷っている時と。私を見ている時と、他を考えている時と。わかるから、匂うから。あの日々は本当だったと信じてる。あなたがハグをくれた日、本当に神様が導いてくれていたんだと感じた日。あの日からの日々は、本物だった。
それをあなたは全部否定した。
私の人生に、やっと私を見てくれる人が現れたと思ったんだ。私のいいところも、悪いところも見て、それでもいいんだって。一緒にゆっくり歩いて行こうって言ってくれた人に出会えたんだと支持てた。そんな人に出会えることはもうないかもしれないし、それぐらいに奇跡なんだって大事にしていた人だったから、ショックで心臓がまた痛かった。
それから、私は、誰も愛してくれない、誰も私なんて愛せなくて。いるだけで周りを喧嘩させてしまう存在なんだと、子供の頃と今とを行き来しながら、何度も暗い夢を見た。
彼に否定さえれる夢。愛してなんかなかった、全部嘘だ、誰が私みたいなやつを愛せるんだと言われる夢。
子供の頃、私がいるところでは両親が喧嘩していて、私がいなくて、弟との3人家族だと仲良く3人で笑っている夢。
彼と一緒に成長してきたこの数年、誰かを笑顔にできるって。誰かと暖かい家庭を築けるって、私だからこそ優しさを与えられれる夢を見たんだけれど、それが全部嘘のようで、そんなものはありえないという暗さが心を覆っていた。
そんな妄想があった分、彼の二人の日々を否定する言葉に絶望した。けれど、私は決して彼と一緒に否定しなかった。
今、二人の関係が壊れているのは知ってるし、同意見。でも、これまでの二人の関係は確かにそこにあって、全部が全部嘘ではなかった。一緒にいっぱいたくさんのところに行った。一緒にたくさんのご飯を共にした。一緒に笑い合って、一緒に成長していた。彼の変化が嬉しかった日々は、彼が言葉も行動もどちらもくれた日々は、確かにそこにあったから。
あなたの前でだけ泣けたの。たくさん泣いた。その時は、心をこんなにも開ける人ができたのだと喜んだ。今は、いいことなのか、悪いことなのか。もうわからない。
愛し愛されると言うこと
彼は私が泣くたびに、こう叱責した。「君が人生をコントロールするのだから、君が君の人生のリーダーなんだから」と。「泣くな、子供じゃないんだから」と。
愛しに行ったんだ。私の意志で。愛を欲していた彼に。彼に必要なのは、認められること。いっぱいありがとうって伝えた。素直に私が悪い時はごめんって言った。
昔は受け止めてくれたけど、ありがとうは水臭い、ごめんはごめんで終わるなら警察いらないと今は言われるだけだ。
好きで、信頼して、見せに行ったんだ。私の全てを。子供の頃の嫌な記憶も、たまに見る悪夢も、両親の毎日の喧嘩の暗闇も、私の好きも、私の嫌いも、全部、心をしっかり開いて、本当の、全部の私の心の奥底を見せに行った。
私たちの関係が壊れても、私はそれを止めなかった。止め方がわからなかった。全部見せたのに、全部知っているはずなのに、それを全て棚に上げて、見ないで、私を責め否定し続けるあなたを止めたくて、私は私を見せ続けた。
ううん、途中から私があなたにシェアする量は減っていった。話したいことがあって、スマホを手にする。そして考える。テキストを送ろうかなって考える。でも、あなたの歪んでイラついた顔が浮かんで、それ以外の顔を思い浮かべたくてじっと考え込むのだけれど、他の顔が思い浮かばず、そのまま静かに携帯を下に置く。
なのに、家に帰って、沈黙が耐えられなくて、話してしまう。怒られるだけなのに。「あ?」って歪んだ顔で言われるだけなのに。
インフルエンザ
インフルエンザになった。朝、調子悪いなぁと思っていたら、昼には熱が出てきた。会社に連絡して、休みをもらう。彼にも念の為に「熱があるから休む」って連絡を入れた。
お粥をデリバリーして、結局届く頃には体が重くなってきていたから一口だけ食べてベッドに入った。彼に「熱があるから、果物帰りに買ってきて」って頼んだ。「OK」とだけ返ってくる。熱が上がってくるのを感じたから、熱冷ましの薬を飲んだ。何かしようと携帯を開いたけれど、意識が重いからそのまま寝た。
2時ごろにまた熱を測ったら、38度以上にまで熱が上がっていて。彼に「帰ってきた時、まだ熱があったら一緒に病院に行って」ってお願いした。
その後、熱冷ましを飲んでるのに熱はどんどん上がってきて、呼吸も苦しくなってきた。彼に「やっぱり自分で病院に行くから、どの病院に行ったらいいか教えて」ってテキストを入れる。もうその時点で頭は朦朧としていて、自分で調べる力は残っていなかった。
待っても連絡は返ってこないし、でも「仕事中かもしれない」って思って、「あんまり邪魔したら怒られる」って思って。耐えてたけど、だんだん熱が上がってくのを感じて、熱があるのに血の気が引いていく感じもあって。手も小刻みに震えてくるし、呼吸も定かじゃなくなってきた。
「このままだと、ここで一人でブラックアウトしてしまう。誰もいない部屋で、彼もいつ帰ってくるかわからないのに、ブラックアウトしちゃったら死んじゃう」
そう、死の危険を感じて、彼に電話した。
「ハロー」って言ったら、「病院だろう、今調べてるから」と、とても不機嫌な声が返ってきた。彼がこの時何をしてたのか、仕事中だったのか、何も知らない。
何も知らないけど、今まで突然電話をかけるなんて、本当に何かあった時にしかかけなかったのに。テキストでのやり取りはいっぱいしてたけど、邪魔したこともあっただろうけど、電話で突然邪魔するなんてほぼなかっただろうに。
そして今、熱がとても上がっていることも伝えてたのに。なのに、彼の第一声はとても不機嫌だった。
ただ、「そう、ありがとう」とだけ伝えて、電話を切る。ただ、低くて不機嫌な声だけが頭に残った。「どうしようかな」とか「このままだったらどうしよう」とか、そんなことを考えるよりも、その絶望感が脳裏にこびりついた。
幸いなことに、その短い間に私の異変に気付いた彼は、すぐ電話を掛け直してきた。呼吸がとても荒くなっていたから。息ができなくなりかけてたから。
「病院のリンクを送る。ここに行け」と。救急車呼んだら、呼んだほうがいいって言われたけど、とりあえずそのまますぐ地図アプリでタクシーを呼んで、そのままコートだけ引っ掴んでスリッパのまま外に出て行った。
呼吸も浅くなってるし、足元もフラフラしたけど、壁にもたれながら階段を降りて、なんとかタクシーにまで辿り着いた。火事場の馬鹿力で、この頃にはもう少し意識がしっかりしてた。「鍵は持ってたけど、鍵を閉め忘れた」って彼にテキストして。彼も「着いたら救急に行け」って指示してくれた。
病院に着いて、フラフラととにかく一番近くの病棟に入って。翻訳アプリに「熱があります」って入力したら、すぐ機械で熱を測ってくれた。ただでさえフラフラなのに、違う言語でやり取りできる気力も余裕も残ってなかった。
40度近くあったから、そのまま一緒に隣の病棟まで連れて行ってくれた。「着いたって、診察してくれる」って、テキストして。この頃には、ちゃんと送ったらすぐテキストを返してくれていた。
そのままインフルエンザの検査をすぐしてくれたけど、結果が出るまで数時間待たないといけないという。寒くて、「毛布持ってきて」って言ったら「オッケー」ってだけ返ってきて。携帯の充電もないって言ったら、「レンタルしろ」って。「いつ来てくれるの」って聞いたら、「夜の8時」って。
死にかけてるのに。頭が朦朧としてて、本当に外国語で会話する力も理解する力もなくなっているのに。彼は来てくれなかった。
待ってる間にまた熱が上がってきて。「体が震える」って、「熱で制御が行かない」ってなんていうの、って聞いて、頑張って声を出して看護師さんを呼んだ。
また意識が朦朧としてきてたから。スマホの画面見せて。看護師さんはまた体温計持ってきてくれて。40度以上あって。「落ち着いて、ゆっくり呼吸しろ」って言われて。落ち着かせてくれて、熱冷まし、すぐ飲ませてくれた。その後はよく分からないまま、薬出して、帰らされた。
薬を受け取って、フラフラしながらタクシー呼んで、家に帰った。本当に、一人でよくやったと思う。
彼は帰ってきた時、何も買ってきていなくて。食欲全くなかったからいいけど、本当に何も気にしてないんだな、と落ち込んだ。
トイレに行ったら、「ちょっとは体調良くなったか」と。自転車を少しの間整備するのを手伝わされた。
熱下がってないし、本当にしんどかったんだけど。そしてベッドに戻って寝てたら、また体調が悪化してきたのを感じた。血の気が引いていく感じ。
彼を呼んで、砂糖水を作ってもらう。また、とてつもない面倒を押し付けられて、と言うような顔を彼はしていたけれど、私はもう本当に動けなくなりかけていた。
彼が作って持ってきてくれた時には、もう体は小刻みに震えて、制御が効かなくなっていた。そのまま「飲ませて」って言って、飲ませてもらって。何口かそのまま飲んで、寝かせてもらった。ただ、体は重いのに、寒くて、小刻みに震える手を制御することはできなくて。
「病院行く?」って聞かれたけど、病院に行ったところで彼らにできることはないってわかってたから、「行くだけ無駄だ」って言った。熱を測ったら、まさかの37度で。きっと熱冷ましが効き始めていたんだと思う。感覚では熱はまた、病院にいた時と同じように40度以上になっていた。
このままだと意識が飛びそうで、呼吸が乱れそうで怖かったから、「手を握って」ってお願いした。どれぐらいの時間かはわからないけど、寝る時間になるまでは手を握ってそこにいてくれた。
ずっと携帯見てて、私を見てくれてなかったけれど。「もういい?」って聞かれて、「まだいて」って駄々をこねた。駄々ってわけでもない。本当に、何かにつながっていないと、意識がブラックアウトしそうだった。「でももう明日も仕事だし、寝ないと」って言われて。「何時?」って聞いて。遅い時間だったから、「わかった」って頷いた。
「明日の朝、生きてるか確認しにきてね」って言って。半分冗談で、半分本気でお願いしてた。彼は「夜中、通知オンにしてるから、なんかあったら電話かけてきていいよ」って言ってくれた。そのまま眠りに落ちて…。
朝起きたら、落ち着いていた。彼も生存確認しにきてくれて、「なんかあったら連絡して」とだけ言って、すぐ会社へ行った。最低限の心配り。
数日後か一週間後、彼は体調が悪いと言った。
私は朝、バナナとりんごと他の果物を買いに行って、ジュースとか飲み物をたくさん買った。インフルエンザの怖さは身をもって知っていたから。
でも彼の「しんどい」は、ただの少しの体調不良で。熱もない。次の日、普通に仕事に行った。その日彼が休みだったのは、風邪をひいたからじゃなくて、ただ彼の休日がその日だったかららしい。ただの私の早とちり。
仕事中も大丈夫って聞こうかなと思ったけれど、鬱陶しがるだろうと思ってテキストしなかった。これら全部が、私の最低限の思いやり。
新しい彼女
そんな日々の中で一ヶ月、彼に彼女ができた。彼と彼女の関係は一ヶ月だけだった。でも、彼が彼女とテキストを送りあったり、電話したり。全てが神経に触った。
わざわざ家に電話かけてくる彼女の気がしれなかった。私たちがまだ同じところに住んでいるのを知っていて、わざわざ電話をかけて。テキストでも終わるような内容を。
テキストを送りあって、ドキドキしてる彼。その先にいたのは私なのに。私たちの恋愛を取り合っていた頃の感覚が蘇って、無性に苛立った。
彼は、彼女は彼のことを「理解できる」から、と言った。彼がそう言うのを聞いて、とても悲しくなり、怒りを感じた。
理解する? 君のことを? 私は君のことを理解していなかった? 許していなかった? 毎回毎回、私は自分のチャンスを捨てて、君を信じた。
「理解する」って、とても簡単だ。私にもそんな親がいる、君の悲しみ、責任感、複雑な気持ちを理解する、って言うのは簡単だ。毎回毎回、私は君の制限を理解し、許し、そのような制限のある環境で、どうやって私たちが暮らしていけるか考えてきた。君は私の話を聞き、私の気持ちを感じ取ってはいるが、頭と心を使って、本当に理解しようとはしなかった。
私がここに来たのは、私たち二人で未来を考えたいと思ったからだ。ただ君に従うだけじゃなく、一生、君の横にいたいと思ったからだ。ただ君にお願いした。私に少しの優しさと時間をちょうだい、と。それさえ、君は私に与えてくれなかった。
私は理解できる。親の前でのプレッシャーと無力感を感じ取ることはできる。でも、ずっと無視され続ける感覚を受け入れ続けることはできない。一度でいいから、大切にされたい。優先されたい。
彼女は20歳そこそこで、大学を卒業したばかりだって。あの頃の私なら、きっと彼女より君のことを知っていた。それでも君を理解することを選んだ。
君はご飯を食べるとき、犬みたいに食べてた。手で皿を持ち上げず、顔をテーブルに近づけて食べる。
箸は上手だけど、ナイフとフォークの使い方は知らない
君は自分が田舎出身だって人に言わない。首都出身だって言う。
君の機嫌は悪くなりやすい。お腹が空いたり、体調が悪いと、すぐ怒り出す。
君の体は疲れやすい。あの頃の君の背中は丸まっていた。
春節の実家。男は女を手伝わない。まだ男尊女卑だ。
君は自分はユーモアがあるって言うけど、実は、私は君が思っているほど面白くないと思ってる。
君は自分はかっこいいって言う。私は顔を見ない。君が優しく笑ってくれさえすればいい。
なんで君が好きだったのか、もう私にも本当にわからない。ただ、君がとても敏感で、私の不快感に気付いてくれたから。私がまだ大丈夫なのか、もう限界なのかを知ってくれたから。私が本当にダメなとき、君がここにいてくれて、私をありのままの私でいさせてくれた。だから、君が好きだった。
今、君は私が君を責めていると思っている。時にはそうだった。でも、ほとんどの場合、私はただ私の感情を発散させたかっただけ。私は君に私のそばに座っていてほしかった。私に寄り添っていてほしかった。ただそれだけを願った。あとは、君は君で、私は私で、それでよかった。
「理解する」って、簡単だ。自分の傷を口にすることは、まあできる。彼は自分の傷を知っている。でも、そんなことお構いなしに、自分の親と同じ行動を始める。それでも私たちはコミュニケーションを取れると願う。それでも否定される。「次はうまくいくといいな」と願えば、「俺に期待するな」と言われる。
私が他の人に自分の傷を見せたのは、彼が初めてだった。彼が尊重してくれると信じて打ち明けていた。
彼が私の傷を無視し始めた時、どうしたらいいかわからなかった。私はただ、「私は傷ついていて、力がないから、少し時間をください」と懇願してた。だって、あなたには私の傷を癒す力がないことも、あなた自身の傷を癒す必要があることもわかっていたから。
君の横にいるということは、私一人で、あなたと私の両方をcareしなければならないこともわかっていた。
私に力がある時は、それができた。今は本当に力がない。もうたくさんの血を失って、誰かにその血を少し分けてもらう必要がある。それでも君を理解するには、まず脳に血を送らなければならない。私はきっと彼女より君のことを理解している。ただ、どうやってこの出血を止めればいいのか、わからない。
部屋
結局部屋にカーテンを買ってもらった。一緒にいたくて、二人の時間を過ごしたくてこだわったリビングで。わざわざカーテンを買って、二人の空間を隔てた。
でも、私が自分から部屋に閉じこもると、彼は何をしてるんだと言いにくる。何度も喧嘩して、何度か彼は本当に私の気持ちなんて気にしてないんだと感じることがあった。気にできないほどに彼も参っていたのだろうけれど。
それで、自分を守ろうと部屋に篭ったことがある。朝ごはんと昼ごはんを部屋で食べようとした。すると彼はやってきて、何してるんだって聞いてくる。そんなとこにいないでリビングで食べていいよって。それだけの良心は朝になると戻っているのだ。
彼の神経は全てを批判と捉えるようになっていて。それだけなのだった。
