二日後。俺は麻生と一緒に駅前にあるカフェで、改めて鷹村と対面していた。
「……あー、えーと。こいつが麻生で、こっちが鷹村な」
一応それぞれを知っていて、仲立ちする立場である俺はざっくりとお互いを紹介する。回りくどいのって苦手だしな。
すると、学校でも相変わらず社交性抜群な鷹村が、自らにこやかに自己紹介を始めた。
「森川高校に転校してきた鷹村久翔だ。初めまして」
「……城誠高校二年の、麻生雪永、です」
まっすぐ視線を向ける鷹村から顔を逸らしながら、麻生がオドオドした口調で答え、差し出された手をおずおず握って握手する。
相変わらず麻生は、俺以外の人間は苦手なのか、まともに話せないらしい。中学の頃は、俺にすら緊張していたけど、花子さんの件で一緒に行動するようになってからようやく普通に話せるようになった。
まぁ、初対面の人間と握手が出来ただけでも、成長なんじゃなかろうか。
カフェでは半個室になっている席を選び、麻生と俺が並んで座って、その向かいに鷹村が腰を下ろした。
店を指定したのは鷹村だったのだが、よく行くファストフード店と違い、クラシックが流れているような静かな店なので少し落ち着かない。
それぞれ頼んだ飲み物――俺はコーラを頼んだが、麻生と鷹村はアイスコーヒーだった――が届いたので、改めて今回の主旨を確認する。
「そんで? 鷹村はクラスの奴らからどこまで俺らのことを聞いたんだ?」
「中学の時に山の中の廃校舎に行って、花子さんを呼び出して以来、月に二回ほど花子さんと『おままごと』をする羽目になった、てことくらいかな」
どうやらクラスメイトたちは、大雑把ではあるものの変な尾ひれなく鷹村に伝えてくれたらしい。そこまでおおまかに知っているなら話がはやい。
「……鷹村くんは、僕らがもう『おままごと』をしなくても良くなる方法を、知ってるの?」
躊躇いがちに麻生が尋ねると、鷹村はなんだか楽しそうに目を細めた。
「方法を知ってるっていうか。まぁ、元凶である『花子さん』を祓っちゃえばいいんじゃないかなって」
「祓う? 俺たちにアドバイスしてくれた神社の神主でも、花子さんを祓うのは『無理』って言われたぞ?」
当時の神主曰く、あの廃校舎には花子さんをはじめとした、それはもう大量の悪霊が巣食っているらしい。
だから祓うこと自体は不可能なので、悪い神様を祀って鎮めるのと同じように、彼女の気が済むまで『おままごと』の相手をするしかないと言われたのだ。
それを簡単に『祓えばいい』なんて。詐欺だとしても、ちょっと甘く見すぎてないだろうか。
「まぁ、正確には祓うと言うよりは『斬る』が正しいけどね」
「『斬る』?」
「……実はオレ、所謂本物の『祓い屋』なんだよね」
鷹村の話によると、俺たちを騙した霊感商法の詐欺師たちとは全く別で、大昔からこの国には密かに土地などを浄化するための組織があるらしく、鷹村本人をはじめ家族全員がその祓い屋の一員なのだという。
そして家族でここに引っ越してきたのも、この辺りで将来計画されている大規模な土地開発のために、土地の調査と浄化をして欲しいという長期依頼を受けたから、なのだとか。
「そんな組織がある、のか……? 麻生、知ってたか?」
アニメや漫画のような、あまりに壮大な話に隣の麻生を見ると、困ったような表情で首を横に振る。
「まぁ、普通の人は知らないからね。無理もないよ。知ってるのは怪現象に巻きこまれた人や、その土地の責任者くらいだし」
鷹村はそう言って、アイスコーヒーのグラスに刺さったストローをぐるぐると掻き回す。
俺はどうにも信じきれなくて、眉と眉の間が痛くなるくらいに顔をしかめていた。それに気付いた鷹村が、困ったように笑う。
「やっぱ信じられないか。あ。それじゃあ、鷹宮神社って知ってるか?」
「……厄除けで有名な、あの神社?」
麻生がハッとして聞き返していた。俺も名前だけは聞いたことがあったけど、麻生が驚くくらいなら結構すごい神社らしい。
「そう、あの鷹宮神社。うちはそこで代々宮司をしている鷹村家の血縁なんだ」
宮司をしている人たちが本家で、鷹村たちはいわゆる分家となるそうだ。
「……な、なるほど?」
「ちょっとは信じてもらえそうかな?」
そう言う鷹村をよそに、麻生が下を向いた。どうしたのかと思えば、机の下で携帯電話の画面をすごい勢いでタップしながら、鷹宮神社について調べている。見ているサイトもなんだか堅苦しそうな文字が並んでいて、何をどう見るのかさえわからない。
鷹村はそんな麻生にチラリと視線を向ける。
「――法人登記に載ってる代表者は『鷹村翔太郎』とあるはずだけど、オレの伯父に当たる人だよ」
「……親戚というのは、本当みたいだね」
呟くように答えた麻生の携帯電話の画面には、鷹村にどことなく似たおっさんがスーツを着ている写真が表示されていた。その伯父さんだろうか。
麻生がちゃんと調べた上で認めたのであれば、鷹村の話は信じ難いが本当のこと、なんだろう。
「じゃあ、麻生にも信用してもらえたようだし、本題に入ろうか」
改めて言う鷹村に、麻生はどことなく不満げな視線を向けていたが、このままじゃ話が進まないのでとりあえず置いておく。
「まぁとにかく。オレや家族はこの辺の土地をきちんと浄化するために来たんだけど、やばい廃校舎のある『山』については簡単に話を聞いててね。しかもそこに通ってる奴らがいるって噂自体は、一応把握していたんだ」
「え、じゃあもしかして、俺と話をするために森川高校に来たのか?」
「いや、そこは本当に偶然。現場に近い高校がいいだろうなって選んだだけだし。まさかこんなに早く張本人たちに会えるとは思ってなかったけど」
俺と麻生は顔を見合わせた。
神社の事といい、祓い屋の件といい、あまりに話が上手すぎる。どうしても詐欺師たちにあれこれ言われ、乗せられたことを思い出してしまい、不安ばかりが頭をよぎった。
「信じる信じないはどっちでもいいよ。杉崎たちからお金をもらう気もないし」
「……プロとして仕事をするのなら、金銭を要求するべきだと思うけど」
麻生が妙に不機嫌そうな顔で鷹村に言う。
「ああ、勘違いさせたな。この土地全体の浄化の費用はちゃんと『上』からもらってるんだ。だから、浄化作業の一環として助けるのであって、杉崎たちから仕事を受けるわけじゃないってこと」
「つまり、僕らの話を聞くのは、情報が欲しいから?」
「そういうことだよ」
胡散臭さがなくなるわけではないが、鷹村の言っていた『設定』が本当なら、筋は通っている。それこそ、金の話や先祖をどうのこうの言っていた詐欺師たちよりは圧倒的にマシな気がした。
「……スギくん、詳しい話をするくらいだったら、大丈夫じゃないかな?」
「うーん、まぁ、そうだな。それくらいなら」
麻生も俺と同じ気持ちだったらしい。話をするだけなら問題はない気がする。
「まぁ話すのはいいんだけど、何が知りたいんだ?」
「とりあえず、その廃校舎がある場所で二人が当時どんな目に遭ったのか、今は何をしてるかを詳しく教えて欲しいんだ。覚えてる範囲でいいよ」
そう言いながら鷹村がカバンからペンとノートを取り出した。
麻生のほうを見ると、小さく頷く。
俺は小さく深呼吸をしてから、口を開いた。
「きっかけになったのは、中学二年の時の、委員活動だったんだ」
「……あー、えーと。こいつが麻生で、こっちが鷹村な」
一応それぞれを知っていて、仲立ちする立場である俺はざっくりとお互いを紹介する。回りくどいのって苦手だしな。
すると、学校でも相変わらず社交性抜群な鷹村が、自らにこやかに自己紹介を始めた。
「森川高校に転校してきた鷹村久翔だ。初めまして」
「……城誠高校二年の、麻生雪永、です」
まっすぐ視線を向ける鷹村から顔を逸らしながら、麻生がオドオドした口調で答え、差し出された手をおずおず握って握手する。
相変わらず麻生は、俺以外の人間は苦手なのか、まともに話せないらしい。中学の頃は、俺にすら緊張していたけど、花子さんの件で一緒に行動するようになってからようやく普通に話せるようになった。
まぁ、初対面の人間と握手が出来ただけでも、成長なんじゃなかろうか。
カフェでは半個室になっている席を選び、麻生と俺が並んで座って、その向かいに鷹村が腰を下ろした。
店を指定したのは鷹村だったのだが、よく行くファストフード店と違い、クラシックが流れているような静かな店なので少し落ち着かない。
それぞれ頼んだ飲み物――俺はコーラを頼んだが、麻生と鷹村はアイスコーヒーだった――が届いたので、改めて今回の主旨を確認する。
「そんで? 鷹村はクラスの奴らからどこまで俺らのことを聞いたんだ?」
「中学の時に山の中の廃校舎に行って、花子さんを呼び出して以来、月に二回ほど花子さんと『おままごと』をする羽目になった、てことくらいかな」
どうやらクラスメイトたちは、大雑把ではあるものの変な尾ひれなく鷹村に伝えてくれたらしい。そこまでおおまかに知っているなら話がはやい。
「……鷹村くんは、僕らがもう『おままごと』をしなくても良くなる方法を、知ってるの?」
躊躇いがちに麻生が尋ねると、鷹村はなんだか楽しそうに目を細めた。
「方法を知ってるっていうか。まぁ、元凶である『花子さん』を祓っちゃえばいいんじゃないかなって」
「祓う? 俺たちにアドバイスしてくれた神社の神主でも、花子さんを祓うのは『無理』って言われたぞ?」
当時の神主曰く、あの廃校舎には花子さんをはじめとした、それはもう大量の悪霊が巣食っているらしい。
だから祓うこと自体は不可能なので、悪い神様を祀って鎮めるのと同じように、彼女の気が済むまで『おままごと』の相手をするしかないと言われたのだ。
それを簡単に『祓えばいい』なんて。詐欺だとしても、ちょっと甘く見すぎてないだろうか。
「まぁ、正確には祓うと言うよりは『斬る』が正しいけどね」
「『斬る』?」
「……実はオレ、所謂本物の『祓い屋』なんだよね」
鷹村の話によると、俺たちを騙した霊感商法の詐欺師たちとは全く別で、大昔からこの国には密かに土地などを浄化するための組織があるらしく、鷹村本人をはじめ家族全員がその祓い屋の一員なのだという。
そして家族でここに引っ越してきたのも、この辺りで将来計画されている大規模な土地開発のために、土地の調査と浄化をして欲しいという長期依頼を受けたから、なのだとか。
「そんな組織がある、のか……? 麻生、知ってたか?」
アニメや漫画のような、あまりに壮大な話に隣の麻生を見ると、困ったような表情で首を横に振る。
「まぁ、普通の人は知らないからね。無理もないよ。知ってるのは怪現象に巻きこまれた人や、その土地の責任者くらいだし」
鷹村はそう言って、アイスコーヒーのグラスに刺さったストローをぐるぐると掻き回す。
俺はどうにも信じきれなくて、眉と眉の間が痛くなるくらいに顔をしかめていた。それに気付いた鷹村が、困ったように笑う。
「やっぱ信じられないか。あ。それじゃあ、鷹宮神社って知ってるか?」
「……厄除けで有名な、あの神社?」
麻生がハッとして聞き返していた。俺も名前だけは聞いたことがあったけど、麻生が驚くくらいなら結構すごい神社らしい。
「そう、あの鷹宮神社。うちはそこで代々宮司をしている鷹村家の血縁なんだ」
宮司をしている人たちが本家で、鷹村たちはいわゆる分家となるそうだ。
「……な、なるほど?」
「ちょっとは信じてもらえそうかな?」
そう言う鷹村をよそに、麻生が下を向いた。どうしたのかと思えば、机の下で携帯電話の画面をすごい勢いでタップしながら、鷹宮神社について調べている。見ているサイトもなんだか堅苦しそうな文字が並んでいて、何をどう見るのかさえわからない。
鷹村はそんな麻生にチラリと視線を向ける。
「――法人登記に載ってる代表者は『鷹村翔太郎』とあるはずだけど、オレの伯父に当たる人だよ」
「……親戚というのは、本当みたいだね」
呟くように答えた麻生の携帯電話の画面には、鷹村にどことなく似たおっさんがスーツを着ている写真が表示されていた。その伯父さんだろうか。
麻生がちゃんと調べた上で認めたのであれば、鷹村の話は信じ難いが本当のこと、なんだろう。
「じゃあ、麻生にも信用してもらえたようだし、本題に入ろうか」
改めて言う鷹村に、麻生はどことなく不満げな視線を向けていたが、このままじゃ話が進まないのでとりあえず置いておく。
「まぁとにかく。オレや家族はこの辺の土地をきちんと浄化するために来たんだけど、やばい廃校舎のある『山』については簡単に話を聞いててね。しかもそこに通ってる奴らがいるって噂自体は、一応把握していたんだ」
「え、じゃあもしかして、俺と話をするために森川高校に来たのか?」
「いや、そこは本当に偶然。現場に近い高校がいいだろうなって選んだだけだし。まさかこんなに早く張本人たちに会えるとは思ってなかったけど」
俺と麻生は顔を見合わせた。
神社の事といい、祓い屋の件といい、あまりに話が上手すぎる。どうしても詐欺師たちにあれこれ言われ、乗せられたことを思い出してしまい、不安ばかりが頭をよぎった。
「信じる信じないはどっちでもいいよ。杉崎たちからお金をもらう気もないし」
「……プロとして仕事をするのなら、金銭を要求するべきだと思うけど」
麻生が妙に不機嫌そうな顔で鷹村に言う。
「ああ、勘違いさせたな。この土地全体の浄化の費用はちゃんと『上』からもらってるんだ。だから、浄化作業の一環として助けるのであって、杉崎たちから仕事を受けるわけじゃないってこと」
「つまり、僕らの話を聞くのは、情報が欲しいから?」
「そういうことだよ」
胡散臭さがなくなるわけではないが、鷹村の言っていた『設定』が本当なら、筋は通っている。それこそ、金の話や先祖をどうのこうの言っていた詐欺師たちよりは圧倒的にマシな気がした。
「……スギくん、詳しい話をするくらいだったら、大丈夫じゃないかな?」
「うーん、まぁ、そうだな。それくらいなら」
麻生も俺と同じ気持ちだったらしい。話をするだけなら問題はない気がする。
「まぁ話すのはいいんだけど、何が知りたいんだ?」
「とりあえず、その廃校舎がある場所で二人が当時どんな目に遭ったのか、今は何をしてるかを詳しく教えて欲しいんだ。覚えてる範囲でいいよ」
そう言いながら鷹村がカバンからペンとノートを取り出した。
麻生のほうを見ると、小さく頷く。
俺は小さく深呼吸をしてから、口を開いた。
「きっかけになったのは、中学二年の時の、委員活動だったんだ」



