「……あ、あの」
不意に麻生がおずおずと手を挙げた。
「解体を始めちゃうんだったら。その……最後に、彼女にお礼とお別れが言いたいんだけど」
「そうだな。これまで余計に付き合わせたお詫びもしておきたいしな」
お化けにそういう感情があるのか分からないが、こちらに興味をなくしていたはずなのに、無理矢理何度も呼び出していたのだから、そっちの意味で怒っているなら謝りたい。
「ああ、そうだな。ケジメとして、最後にやっておいたほうがいいだろうな」
「よし、じゃあやろうぜ!」
鷹村の言葉に、俺と麻生はすぐに『おままごと』の準備を始めた。
まず持ち込んだ小さな箒でエントランスの掃除をして、いつものようにレジャーシートを広げる。その上に、おままごと用のオモチャを並べた。
小さなまな板やプラスチックの包丁、他にガスコンロと流し台を置いてキッチンの場所を決め、ちゃぶ台やオモチャのテレビを置いてリビングを作る。
「へー、結構本格的な『おままごと』なんだな」
「三年もやってるからな……」
「ずっと同じような内容だと僕らも飽きちゃうから、色々持ち込んじゃったね」
レジャーシートの上に小さな『家』ができたら、次は花子さんを呼び出す時間だ。
俺と麻生で向かい合って座ると、小さく深呼吸をして、始める。
「はーなこさん、遊びましょう」
「遊びの続きをいたしましょう」
「はーなこさん、遊びましょう」
「ままごと続きをいたしましょう」
麻生と交互に、童謡を歌うようにして花子さんに呼びかけた。
するといつものように、廊下の先の、かつてトイレがあった辺りから、ギィィとドアの開く音がして、校舎内の温度が少し下がる。
〈はーあーい〉
女の子の囁き声。
そしていつもなら、クスクス笑う声が近づいてくるだけのはず……なのに、今日だけはトイレの前のボロボロの廊下に、女の子が立っていた。
「……え?」
おかっぱ頭で白いシャツ。赤いスカートを履いた小学生くらいの、女の子。
時々、家にも現れたことがあるその姿だ。
「……姿が」
「み、視える?」
いつもなら気配しかないのに、廃校舎の中でしっかりと姿を見たのは、最初に『花子さん』の検証をした時以来かもしれない。
〈今日はお客様がいるのね〉
囁き声がしたと思ったら、廊下の先にいたはずの女の子が目の前にいた。
相変わらず動きは読めないし、表情もいつもの三日月みたいな口元以外は真っ黒で分からない。でも、なんだか声が嬉しそうだった。
「うん、そうなんだ。だから、今日は四人でやろうと思うんだけど、いいかな?」
麻生が全く予想外の言葉を口にする。せっかく鷹村もいるのだし、四人でやるというのも悪くない。
「おぉ、いいなそれ!」
「でしょ?」
「……は?」
レジャーシートの外側で腕を組み、完全に見学するつもりだった鷹村が明らかに嫌そうな顔をした。いつもどこか爽やかだったり、生真面目そうな顔をしてる鷹村も、こういう表情をするのだな、となんだか新鮮な感じがする。
〈うん、いいよ〉
花子さんが嬉しそうな声で囁いた。
「ほらほら。花子さんもこう言ってることだし、お前も付き合えよ」
俺がそう言って手招きをするも、鷹村は動こうとしない。
「しかし、この年齢で『おままごと』は……」
そう言って渋っていた鷹村が、バタンッと突然何かに引っ張られるみたいに、レジャーシートの上に倒れた。
「鷹村!?」
慌てて駆け寄ると、鷹村はすぐに身体を起こし、花子さんのほうを睨みつける。
〈……お兄さんも、あそぼう?〉
半透明の女の子が俺と鷹村のほうを向いて笑っていた。
どうやらコレは、彼女の仕業、らしい。
「わかった……」
鷹村は大きくため息をつくと、履いていた靴を脱いでレジャーシートの外側に置き、その場で胡座をかいた。
「じゃ、じゃあ、始めるね」
奥の方で正座していた麻生がそう言って、ひとつ咳払いをする。
そうして、最後の『おままごと』が始まった。
「お帰りなさい、お父さん。今日はお客様が一緒なのね」
「ただいま母さん。ああ、職場の同僚を連れてきたんだ」
俺はそう言って、鷹村の腕を引っ張って近くまで引き寄せる。
「ど、どーも」
気恥ずかしいのか、鷹村がノリの悪い感じで答えた。
「さぁ、花子も挨拶しなさい」
〈はじめまして、娘の花子です!〉
いつの間にか麻生の隣に、ちょこんと正座をしていた花子さんが楽しそうな声で言う。
「……どうも、お父さんの同僚デス。……なんでオレがこんなことを」
「まーまー、いいじゃねぇか」
俺はそう言って鷹村の肩を叩いた。かなり社交的な優等生だと思っていたが、案外こういう遊びは苦手らしい。
鷹村の紹介が終わると、麻生が夕飯をつくり、花子さんが配膳をして、俺が学校での様子を尋ねてと、しばらくはいつものように『おままごと』を続ける。
これまでは姿の見えない、声だけの存在を相手にしていたけれど、こうして半透明だけど姿の分かる女の子との『おままごと』は、まるで小さい従妹たちを相手にしている時と変わらなくて、普通に楽しかった。
そして、校舎の外がすっかり暗くなった頃、いつもなら眠りについて終わりだけれど、今日は違う。
会話の区切りを見計らって、麻生と俺はお互いに頷くと、花子さんに話しかけた。
「あのね、今日でここに来るのは最後にしようと思って来たんだ」
「悪かったな、俺たちのワガママに付き合わせちゃってたみたいでよ」
しばらくはキョトンとした様子だったが、彼女はようやく笑ってくれた。
〈ううん、楽しかったからいいよ〉
「……ありがとう」
麻生が少しホッとしたようにそう言って、俺は麻生の頭をわしわし撫でる。
きっと彼女にとって、麻生が嘘を吐いていたことは、大したことじゃないんだろう。
彼女はただ、誰かと遊びたかっただけで。
そして俺たちは、その誰か――遊び相手に選ばれただけ。
ただ、それだけだった。
「じゃあもう、お前はしっかり満足してるわけだな」
〈うん!〉
なんだか妙にぐったりした鷹村の問いに、花子さんは嬉しそうに答える。
「よし。それじゃ、導いてやるか」
鷹村がそう言って立ち上がり、レジャーシートの端に避けていた、例の細長い袋を持ってくると、その中身を取り出した。
それは時代劇ぐらいでしか見ないような、緩やかに弧を描く白い鞘に納まった日本刀。
「げ、本当に日本刀だった!」
「本物……?」
「言っただろ? 仕事道具だってな」
鷹村はそう言うと、白と金で出来た柄の部分を握り、ゆっくりと鞘から刀身を抜き出す。
そしてその剣先を床に突き立てると、鷹村は静かに口を開いた。
「掛ケマクモ畏キ伊邪那岐大神、筑紫ノ日向ノ橘ノ……」
神社で神主さんがお祓いをしている時に唱えていた、祝詞というやつだった。
「……すご」
まるで歌うように続けられる祝詞に聞き入っていると、半透明だった花子さんの姿が内側から光り始めていることに気付く。
そのうち、女の子の姿はゆっくりと溶けるように輪郭がなくなり始めていた。
〈バイバイ……〉
囁くような声が一瞬だけ聞こえる。
そして眩しかった光が消えると、もうそこには何もなかった。
「消えちゃった……」
「え。も、もしかして、成仏した、のか?」
「んー、ちょっと違うけど、まぁそんなところだな」
恐る恐る尋ねると、鷹村は刀身を鞘に納めながらどこか得意げに笑う。
「やったー!!」
俺は両手を万歳して叫ぶと、そのままの勢いで、ぼんやりと天井を見上げたままの麻生に抱きついた。
「やったな、麻生! これで普通に放課後も遊びに行ったり出来るな!」
ようやくだ。
ようやくこれで、俺も麻生も普通の高校生ができる。
そう思って喜んだのに、麻生は驚いたように目を見開いて俺を見た。
「……いいの?」
きっと麻生のことだ、嘘を吐いた自分なんかと遊んでくれるのかと、信じられないんだろう。
さっきだってそう言ったのに。頭がいいくせに、すぐ忘れるなよ。
「いいって言っただろ!」
俺がそう言って笑うと、また麻生の目に涙がジワジワと溢れてきていた。
「……うん」
こんなにデカいのに泣き虫で、寂しがり屋なヤツを放っておけるわけないじゃん。
俺はいつものように、麻生の頭をワシワシと撫でる。
「あ、まずはその前髪を切らねーとな?」
「……そうだね。お願い、叶ったもんね」
そう言う麻生と笑い合って、もう一度頭を撫でた。
鷹村のほうを見ると、あの日本刀をいつも持ち歩いている細長い布の袋にしまっているところだったので、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「なぁ、ここって元々悪霊の巣窟って言われてたのに、なんで花子さんだけになってたんだ?」
「ああ、そのことか。お前らが定期的にここに来て『おままごと』してたからだよ」
「へ?」
「……簡単にいうと、悪霊は悪い感情を持った花子さんがいたから集まってたんだが、元凶の花子さんがお前らとの『おままごと』で楽しいって思うようになったことで、悪霊たちが去っていったんだ」
「な、なるほど……?」
どうやら俺と麻生は、なかなかなことをやったらしい。
確かに言われてみると『おままごと』を始めた当初は、校舎に入るだけでも怖くて仕方なかったけれど、だんだん平気になって、すっかりくつろげるまでになった。
もしかしたらこれは、その悪霊たちがいなくなっていたからだったのかもしれない。
――慣れ……とかじゃなかったんだな。
色んなことに理由があるのだと、なんだかしみじみしてしまう。
「しかし、助かったよ。噂通りに悪霊の巣窟だったら、もっと大掛かりなことになる予定だったからな。それがなくなっただけでも助かったわ」
「まぁ、役に立ったなら、いいか」
せっかくの青春を、この廃校舎に通うことで使ってしまったのだ。それが無駄じゃなかったのなら、それでいい。
不意に麻生がおずおずと手を挙げた。
「解体を始めちゃうんだったら。その……最後に、彼女にお礼とお別れが言いたいんだけど」
「そうだな。これまで余計に付き合わせたお詫びもしておきたいしな」
お化けにそういう感情があるのか分からないが、こちらに興味をなくしていたはずなのに、無理矢理何度も呼び出していたのだから、そっちの意味で怒っているなら謝りたい。
「ああ、そうだな。ケジメとして、最後にやっておいたほうがいいだろうな」
「よし、じゃあやろうぜ!」
鷹村の言葉に、俺と麻生はすぐに『おままごと』の準備を始めた。
まず持ち込んだ小さな箒でエントランスの掃除をして、いつものようにレジャーシートを広げる。その上に、おままごと用のオモチャを並べた。
小さなまな板やプラスチックの包丁、他にガスコンロと流し台を置いてキッチンの場所を決め、ちゃぶ台やオモチャのテレビを置いてリビングを作る。
「へー、結構本格的な『おままごと』なんだな」
「三年もやってるからな……」
「ずっと同じような内容だと僕らも飽きちゃうから、色々持ち込んじゃったね」
レジャーシートの上に小さな『家』ができたら、次は花子さんを呼び出す時間だ。
俺と麻生で向かい合って座ると、小さく深呼吸をして、始める。
「はーなこさん、遊びましょう」
「遊びの続きをいたしましょう」
「はーなこさん、遊びましょう」
「ままごと続きをいたしましょう」
麻生と交互に、童謡を歌うようにして花子さんに呼びかけた。
するといつものように、廊下の先の、かつてトイレがあった辺りから、ギィィとドアの開く音がして、校舎内の温度が少し下がる。
〈はーあーい〉
女の子の囁き声。
そしていつもなら、クスクス笑う声が近づいてくるだけのはず……なのに、今日だけはトイレの前のボロボロの廊下に、女の子が立っていた。
「……え?」
おかっぱ頭で白いシャツ。赤いスカートを履いた小学生くらいの、女の子。
時々、家にも現れたことがあるその姿だ。
「……姿が」
「み、視える?」
いつもなら気配しかないのに、廃校舎の中でしっかりと姿を見たのは、最初に『花子さん』の検証をした時以来かもしれない。
〈今日はお客様がいるのね〉
囁き声がしたと思ったら、廊下の先にいたはずの女の子が目の前にいた。
相変わらず動きは読めないし、表情もいつもの三日月みたいな口元以外は真っ黒で分からない。でも、なんだか声が嬉しそうだった。
「うん、そうなんだ。だから、今日は四人でやろうと思うんだけど、いいかな?」
麻生が全く予想外の言葉を口にする。せっかく鷹村もいるのだし、四人でやるというのも悪くない。
「おぉ、いいなそれ!」
「でしょ?」
「……は?」
レジャーシートの外側で腕を組み、完全に見学するつもりだった鷹村が明らかに嫌そうな顔をした。いつもどこか爽やかだったり、生真面目そうな顔をしてる鷹村も、こういう表情をするのだな、となんだか新鮮な感じがする。
〈うん、いいよ〉
花子さんが嬉しそうな声で囁いた。
「ほらほら。花子さんもこう言ってることだし、お前も付き合えよ」
俺がそう言って手招きをするも、鷹村は動こうとしない。
「しかし、この年齢で『おままごと』は……」
そう言って渋っていた鷹村が、バタンッと突然何かに引っ張られるみたいに、レジャーシートの上に倒れた。
「鷹村!?」
慌てて駆け寄ると、鷹村はすぐに身体を起こし、花子さんのほうを睨みつける。
〈……お兄さんも、あそぼう?〉
半透明の女の子が俺と鷹村のほうを向いて笑っていた。
どうやらコレは、彼女の仕業、らしい。
「わかった……」
鷹村は大きくため息をつくと、履いていた靴を脱いでレジャーシートの外側に置き、その場で胡座をかいた。
「じゃ、じゃあ、始めるね」
奥の方で正座していた麻生がそう言って、ひとつ咳払いをする。
そうして、最後の『おままごと』が始まった。
「お帰りなさい、お父さん。今日はお客様が一緒なのね」
「ただいま母さん。ああ、職場の同僚を連れてきたんだ」
俺はそう言って、鷹村の腕を引っ張って近くまで引き寄せる。
「ど、どーも」
気恥ずかしいのか、鷹村がノリの悪い感じで答えた。
「さぁ、花子も挨拶しなさい」
〈はじめまして、娘の花子です!〉
いつの間にか麻生の隣に、ちょこんと正座をしていた花子さんが楽しそうな声で言う。
「……どうも、お父さんの同僚デス。……なんでオレがこんなことを」
「まーまー、いいじゃねぇか」
俺はそう言って鷹村の肩を叩いた。かなり社交的な優等生だと思っていたが、案外こういう遊びは苦手らしい。
鷹村の紹介が終わると、麻生が夕飯をつくり、花子さんが配膳をして、俺が学校での様子を尋ねてと、しばらくはいつものように『おままごと』を続ける。
これまでは姿の見えない、声だけの存在を相手にしていたけれど、こうして半透明だけど姿の分かる女の子との『おままごと』は、まるで小さい従妹たちを相手にしている時と変わらなくて、普通に楽しかった。
そして、校舎の外がすっかり暗くなった頃、いつもなら眠りについて終わりだけれど、今日は違う。
会話の区切りを見計らって、麻生と俺はお互いに頷くと、花子さんに話しかけた。
「あのね、今日でここに来るのは最後にしようと思って来たんだ」
「悪かったな、俺たちのワガママに付き合わせちゃってたみたいでよ」
しばらくはキョトンとした様子だったが、彼女はようやく笑ってくれた。
〈ううん、楽しかったからいいよ〉
「……ありがとう」
麻生が少しホッとしたようにそう言って、俺は麻生の頭をわしわし撫でる。
きっと彼女にとって、麻生が嘘を吐いていたことは、大したことじゃないんだろう。
彼女はただ、誰かと遊びたかっただけで。
そして俺たちは、その誰か――遊び相手に選ばれただけ。
ただ、それだけだった。
「じゃあもう、お前はしっかり満足してるわけだな」
〈うん!〉
なんだか妙にぐったりした鷹村の問いに、花子さんは嬉しそうに答える。
「よし。それじゃ、導いてやるか」
鷹村がそう言って立ち上がり、レジャーシートの端に避けていた、例の細長い袋を持ってくると、その中身を取り出した。
それは時代劇ぐらいでしか見ないような、緩やかに弧を描く白い鞘に納まった日本刀。
「げ、本当に日本刀だった!」
「本物……?」
「言っただろ? 仕事道具だってな」
鷹村はそう言うと、白と金で出来た柄の部分を握り、ゆっくりと鞘から刀身を抜き出す。
そしてその剣先を床に突き立てると、鷹村は静かに口を開いた。
「掛ケマクモ畏キ伊邪那岐大神、筑紫ノ日向ノ橘ノ……」
神社で神主さんがお祓いをしている時に唱えていた、祝詞というやつだった。
「……すご」
まるで歌うように続けられる祝詞に聞き入っていると、半透明だった花子さんの姿が内側から光り始めていることに気付く。
そのうち、女の子の姿はゆっくりと溶けるように輪郭がなくなり始めていた。
〈バイバイ……〉
囁くような声が一瞬だけ聞こえる。
そして眩しかった光が消えると、もうそこには何もなかった。
「消えちゃった……」
「え。も、もしかして、成仏した、のか?」
「んー、ちょっと違うけど、まぁそんなところだな」
恐る恐る尋ねると、鷹村は刀身を鞘に納めながらどこか得意げに笑う。
「やったー!!」
俺は両手を万歳して叫ぶと、そのままの勢いで、ぼんやりと天井を見上げたままの麻生に抱きついた。
「やったな、麻生! これで普通に放課後も遊びに行ったり出来るな!」
ようやくだ。
ようやくこれで、俺も麻生も普通の高校生ができる。
そう思って喜んだのに、麻生は驚いたように目を見開いて俺を見た。
「……いいの?」
きっと麻生のことだ、嘘を吐いた自分なんかと遊んでくれるのかと、信じられないんだろう。
さっきだってそう言ったのに。頭がいいくせに、すぐ忘れるなよ。
「いいって言っただろ!」
俺がそう言って笑うと、また麻生の目に涙がジワジワと溢れてきていた。
「……うん」
こんなにデカいのに泣き虫で、寂しがり屋なヤツを放っておけるわけないじゃん。
俺はいつものように、麻生の頭をワシワシと撫でる。
「あ、まずはその前髪を切らねーとな?」
「……そうだね。お願い、叶ったもんね」
そう言う麻生と笑い合って、もう一度頭を撫でた。
鷹村のほうを見ると、あの日本刀をいつも持ち歩いている細長い布の袋にしまっているところだったので、俺は気になっていたことを聞いてみる。
「なぁ、ここって元々悪霊の巣窟って言われてたのに、なんで花子さんだけになってたんだ?」
「ああ、そのことか。お前らが定期的にここに来て『おままごと』してたからだよ」
「へ?」
「……簡単にいうと、悪霊は悪い感情を持った花子さんがいたから集まってたんだが、元凶の花子さんがお前らとの『おままごと』で楽しいって思うようになったことで、悪霊たちが去っていったんだ」
「な、なるほど……?」
どうやら俺と麻生は、なかなかなことをやったらしい。
確かに言われてみると『おままごと』を始めた当初は、校舎に入るだけでも怖くて仕方なかったけれど、だんだん平気になって、すっかりくつろげるまでになった。
もしかしたらこれは、その悪霊たちがいなくなっていたからだったのかもしれない。
――慣れ……とかじゃなかったんだな。
色んなことに理由があるのだと、なんだかしみじみしてしまう。
「しかし、助かったよ。噂通りに悪霊の巣窟だったら、もっと大掛かりなことになる予定だったからな。それがなくなっただけでも助かったわ」
「まぁ、役に立ったなら、いいか」
せっかくの青春を、この廃校舎に通うことで使ってしまったのだ。それが無駄じゃなかったのなら、それでいい。



