「無事に終わったね、お疲れ様!」
私立誠北館高校、生徒会室。
メンバーをねぎらう明るい声は3年の姉御肌キャラ、会計の平沢莉麻先輩だ。
「お疲れ様です! なんのトラブルもなくてよかったですね!」
同じく陽キャ属性のムードメーカー副会長、2年の野々隈浩二が言い、
「ひと段落ですね~。ほっとした~」
おっとり癒しキャラ、2年書記の安岐静乃がほわほわと笑う。
4月なかば、今日は生徒会主催の新入生歓迎会だった。
今は放課後。簡単な総括会のため、全員で集まったところだ。
「いや、次への課題がないわけじゃないぞ」
「そうよ、反省点もあるわ」
そう言ったのは2大秀才キャラ、3年書記の実嘉島亜門先輩と、同じく3年副会長、三咲蘭花先輩。
三咲先輩が長い黒髪を揺らし、部屋の最奥に座る人物に顔を向けた。
「とにかく、生徒会長から一言お願いしましょう」
その声に、全員がお誕生日席に座る彼へ注目する。
ただ座っているだけでも貫禄のある、我が誠北館の生徒会長。
主席入学者で、1年の時から注目される優等生。昨年も前後期通して副会長を務め、今年なるべくして生徒会長に就任した、人望厚いその人。
3年の、黒瀬獅央先輩。
生徒からも教師からも信頼され、その名前から『誠北館の黒獅子』なんて異名まで持っている人物だ。
「まずはみんな、お疲れ様。成功はみんなの尽力あってこそだ、各自よくやってくれた」
そんな生徒会長は、左右に座る仲間をゆっくりと見回し、よく通る声で言った。
「1年生も楽しんでくれていた。大きな問題はなかったが、たしかに次に活かせる改善点もあるだろう。気になったことはなんでも言ってほしい」
するとさっそく、実嘉島先輩と三咲先輩が発言した。
会長はそれを真剣な顔で聞き、受け止めて、他のメンバーにも意見を聞いたりする。
(ほんと、できた会長だよな)
まだ新学期、このメンバーで動き出してからは2週間ほどしか経っていない。しかも野々隈と安岐は生徒会初参加だ。
それでもよくまとまっている。ひとえに、会長への信頼と彼自身のリーダーシップのおかげだと思う。
(真面目なだけじゃないところが絶妙なんだよな。落ち着いててクール系だけど、冷たいわけじゃなくて懐が大きい感じで)
優等生だけど、頭の硬いガリ勉じゃない。もちろん頭がいいことをひけらかしたりなんかしない。威張った感じはなく、ただただ品のいい知的さがあふれている。
視野が広くて、考え方も公平で、寛大で優しくて。
(しかも、顔もいいし)
きりっとした凛々しい眉や涼しい目元、高くて綺麗な鼻筋。薄い唇。それに、つやつやした少し前髪長めの黒髪なんかを見ながら、俺はそんなことを考えていた。
と、その整った顔と目が合う。
「泉はどうだった?」
(……やば、ろくに聞いてなかったけど)
「どの出し物も盛り上がってたのでよかったと思います。ただ予算面と、体育館ステージ使用ということで本来の希望内容から変更せざるを得なかった部が4部ありました。予算配分や、表現方法ももっと柔軟に、何か模索していけたらいいなと思います」
誰か似たようなことをもう発言していないか不安だったけど、「あーそうだね」という声が口々に上がる。大丈夫だったようだ。
「たしかに、それも課題だな。ありがとう」
そう言ってほほ笑む会長に、俺も薄く笑って「はい」と会釈した。
失敗しなくてよかった。ここではちゃんとしてなくちゃいけない。
俺、泉湊音(2年)も、ここでは真面目でお利口な生徒会の一員なんだから。
去年は前期で学年代表の準会員、後期で書記を務めた。
そして今年は会計に就任。野々隈や安岐からすれば生徒会歴の先輩だ。
生徒会長のように常に成績トップを誇る天才じゃないけど、学年で10位以内はキープ中。優等生といっていいレベルだと自負している。
だから、ミスしちゃいけない。
「それにしても、生徒会長挨拶の時、1年生の目キラッキラしてたね。まぁわかりきってた反応だけど」
「ですね~。もういっぱい、ファンになった女の子いるでしょうね~」
ほどなくして反省点の話題は終わり、ゆるかやに雑談へと移っていく。
平沢先輩が言い出して、安岐や野々隈が乗っかる。いつもの流れだ。
「それで言ったら、泉もかなり話題になってるみたいですよ!」
ほら来た、野々隈の一声。俺は内心で舌打ちした。
「泉くんは後輩には渡さないけどね! 3年のアイドルなんだから!」
「その発言は問題よ、平沢さん。泉くんを愛でる権利は全員にあるんだから」
三咲先輩がたしなめるけれど、残念ながら俺からしたらフォローにもなっていない。
「やめてくださいよ、二人とも」
しかめ面したくなる筋肉を制御し、俺は照れくさそうに苦笑した。
「でも目立つのは無理ないよな、こんな可愛いんだから」
(黙れノーテンキ)
相変わらず陽キャ全開でデカい声を出す野々隈には、想像で頭頂部にシャーペンを突き刺しておく。
外見には触れられたくない。この見た目は、俺のコンプレックスなのだ。
身長170㎝。絶望的に低いわけじゃないけど、高くはない。線が細いので実際より小さく見えるのもネックだ。
で、絶望的なのは顔。
色白の肌に丸っこく大きな目、くっきりした二重。濃いまつ毛。小さな鼻と、何もしていないのに「リップ塗ってる?」と聞かれがちな、少し厚めの桜色の唇。
つまり、俺の顔立ちは可愛い。女の子……というか、美少女張りに可愛い(らしい)。
いや、一応『らしい』なんて付けたけど、自己認識もしている。
幼稚園の頃から近所で評判で、園では年長さん中心に『湊音くんを守る会』的な、せっせと世話を焼いてくれる集団まであった。
小学生、中学生時も「可愛いね」って言葉は挨拶並みに聞き続けたし、ファンクラブっぽいのもあったし、告白も何度もされた。男に告白されたことも数回ある。
でも、男なのに可愛いなんて言われても当然嬉しくない。
嬉しいと感じる男もいるのかもしれないけど、少なくとも俺は嬉しくない。
男なんだから、かっこいい、男らしいと言われるほうがいい。会長みたいに。
「ところで、前に話していた親睦会の件はどうする?」
と、その高身長体格よし文句なし男らしい系イケメンの会長が言った。
「ああ、花見でもどうかと話していたやつか」
メタルフレームメガネのブリッジを押し上げながら実嘉島先輩。
「あ、言ってましたね。やりたいです~、やりましょうよ」
安岐が声を弾ませ、話題は完全に変わった。
俺も記憶を探る。そういえば新歓準備が大詰めで忙しくなる前、これが終わって落ち着いたら親睦会をやりたいね、なんて話が出ていた。
入学式の後には対面式があり、今日の新歓。ここまで行事続きで余裕がなかったけれど、この後は5月中旬の生徒総会まで少し落ち着く。
だからお疲れ様会と親睦会を兼ねて、みんなでお花見にでも行かないか、と。
「桜、もう散ってるんじゃないかしら」
「だと思うが、まだ間に合うだろ。親睦会なんだから別に満開じゃなくても問題はないし」
「ですね、ピークじゃない分空いてるだろうし。俺もやりたいです、親睦会!」
全員が乗り気で、話はどんどん進んでいった。
「場所はどこにする? 僕が昔よく家族と行ったのは立花公園だな」
「飛鳥の森公園の桜も綺麗ですよー」
「あそこは? ほら、お隣に去年できたなんちゃら自然パーク」
ここは東京都だけれど23区外で、この市にも近隣の市にも自然は比較的多い。
候補はいくつも挙がったけれど、最終的に平沢先輩推薦の『なんちゃら自然パーク』に決まった。
「今週土曜、晴れ予報ね。この日にしましょうか」
「うん、決定! みんなでお弁当持ち寄って食べよう! 話そう! 仲を深めよう!」
「……弁当」
「どうかしたか、泉?」
ついぽそりと呟いた俺に、会長が目を向ける。
「……あ、いえ、なんでも」
(そっか、花見……弁当持ち寄り……まぁそうなるか……
お重や大容器に入れたお弁当をみんなでシェアする。花見の定番スタイルだ。
「私、お母さんにいっぱい作ってもらいますね。料理好きだから喜んで作ってくれると思います」
「あら嬉しい。安岐さん、いつも美味しそうなお弁当食べてるものね」
「うーん、実は僕の母はあまり料理が得意じゃないんだ。おにぎり担当でもいいか」
「全然かまわないよ。ご家族に無理をしてもらう必要はない。各自、できる範囲のものを持ち寄ればいい」
会長がおおらかに答え、実嘉島先輩が「助かる」とほほ笑む。
「泉くんは?」
三咲先輩が俺に水を向けた。多分、弁当の話題になってから俺が一言も発してないので気になったんだろう。
「俺んちは……」
設定を振り返る。
昼食がいつもコンビニのパンやおにぎりなのは、『母親が朝早い仕事で、負担になるのが申し訳ないから』。
『でも料理は普通にする。晩ご飯や土日は腕を振るってくれてる』。
前に、そんなことを話した記憶がある。
(ってことは……休日のお花見に何もしてくれないってのは、さすがに不自然か)
「……うちも作ってくれると思います」
にこっと笑って答える。
(……ま、どうにかなるだろ)
内心では、そんなことを考えながら。


