「私は円城時子。葵様に仕えております者です。異能はご覧の通り――自分を含め、触れた物の時間を操る力。紫乃様が攫われて五年ほど経った頃、あのろくでなしが怪しいと踏み、警戒されにくい老婆の姿に変じて汀家の門を叩きました。それからは〝トキ〟と名乗って使用人として暮らしながら、ずっと紫乃様を見守っておりました。……ああ、ちなみに今、豚に水を浴びせたんは、葵様の術ですえ」
「そん……、な……」
誰よりも一番驚いた紫乃は、目をまん丸に見開いて二の句を告げずにいる。
驚きのあまり、〝トキ〟が物凄い毒舌で菖蒲を「豚」と言った事にも反応できずにいた。
「せやし、その豚共が、葵様が紫乃様のために送らはった金を無駄遣いしている事も、逐一ご報告しておりました。豚の旦那様は、〝どうして約定を破ったことが知られているのか〟分からんまま、さぞ肝を冷やしておいでやったでしょうなぁ。毎月、水流迫家からの罰を怖れて怯えてはったようやけど……そないなもん、みぃんな自業自得です。……最初から紫乃様を大切に育てておいでやったら、汀家が金に困ることもあらしまへんでした。せやのに実際は、他人の金を掠め取って上辺だけの贅沢をし、使用人への給金すら満足に払えへん。近頃では、鬼討伐の報奨金まで、あっという間に暮らしの金へ消えていく始末。……そんな有様で、天下の水流迫家と上水流家を敵に回せると本気で思うてはったんですか? ――この豚が。…………ああ、あきまへんなぁ。豚に失礼や。このゴミカスが」
トキ――、と思っていた時子の毒舌を聞き、紫乃は呆気にとられて放心している。
そんな紫乃に、時子は申し訳なさそうな目を向けた。
「私の役目は、ただお側で紫乃様を見守り、出来事を報告し続ける事だけやったんです。下手に手を出せば、かえって汀家での紫乃様のお立場を悪うしてしまうかもしれへん。……葵様が〝成人するまでは待つ〟とお決めになった以上、たとえ紫乃様がどれほど酷い目に遭わはってもお助けする事ができひんかった。……あないな地獄みたいな暮らしを、幼い頃から耐え忍んでこられた紫乃様に、『堪忍してください』やなんて、口が裂けても言えしまへん。…………せやけど、もし許していただけるのなら。どうか、心からのお詫びを言わせてください。えろう申し訳ございませんでした。心より、お詫び申し上げます」
そう言って、時子は紫乃に向かって深く頭を下げた。
「……あ、……の……。トキ……が、時子さん……、だったのは分かりました。……長い間、トキとして側にいてくれてありがとうございます」
紫乃は驚きながらも、思った事を口にしていく。
「……確かに、汀家での日々はつらいものでした。……ですが、トキだけは私の側にいてくれたから、励まされていました。私の代わりにあなたが責められる事もあったのに、私が情けないばかりに、守れなくてごめんなさい」
逆に紫乃に謝られ、時子はクシャリと表情を歪める。
「……お嬢様は、ほんにそういうお方ですやんなぁ。葵様――これが、あなた様のご息女です。どうか、誇りに思うてあげておくれやす」
時子に言われ、葵は泣きそうな顔で頷いた。
「……ええ。どないな土地に種を撒かれようとも、美しい花は美しゅう咲くもんです」
その時、それまで事を静観していた隼人が、菖蒲に水を向けた。
「そん……、な……」
誰よりも一番驚いた紫乃は、目をまん丸に見開いて二の句を告げずにいる。
驚きのあまり、〝トキ〟が物凄い毒舌で菖蒲を「豚」と言った事にも反応できずにいた。
「せやし、その豚共が、葵様が紫乃様のために送らはった金を無駄遣いしている事も、逐一ご報告しておりました。豚の旦那様は、〝どうして約定を破ったことが知られているのか〟分からんまま、さぞ肝を冷やしておいでやったでしょうなぁ。毎月、水流迫家からの罰を怖れて怯えてはったようやけど……そないなもん、みぃんな自業自得です。……最初から紫乃様を大切に育てておいでやったら、汀家が金に困ることもあらしまへんでした。せやのに実際は、他人の金を掠め取って上辺だけの贅沢をし、使用人への給金すら満足に払えへん。近頃では、鬼討伐の報奨金まで、あっという間に暮らしの金へ消えていく始末。……そんな有様で、天下の水流迫家と上水流家を敵に回せると本気で思うてはったんですか? ――この豚が。…………ああ、あきまへんなぁ。豚に失礼や。このゴミカスが」
トキ――、と思っていた時子の毒舌を聞き、紫乃は呆気にとられて放心している。
そんな紫乃に、時子は申し訳なさそうな目を向けた。
「私の役目は、ただお側で紫乃様を見守り、出来事を報告し続ける事だけやったんです。下手に手を出せば、かえって汀家での紫乃様のお立場を悪うしてしまうかもしれへん。……葵様が〝成人するまでは待つ〟とお決めになった以上、たとえ紫乃様がどれほど酷い目に遭わはってもお助けする事ができひんかった。……あないな地獄みたいな暮らしを、幼い頃から耐え忍んでこられた紫乃様に、『堪忍してください』やなんて、口が裂けても言えしまへん。…………せやけど、もし許していただけるのなら。どうか、心からのお詫びを言わせてください。えろう申し訳ございませんでした。心より、お詫び申し上げます」
そう言って、時子は紫乃に向かって深く頭を下げた。
「……あ、……の……。トキ……が、時子さん……、だったのは分かりました。……長い間、トキとして側にいてくれてありがとうございます」
紫乃は驚きながらも、思った事を口にしていく。
「……確かに、汀家での日々はつらいものでした。……ですが、トキだけは私の側にいてくれたから、励まされていました。私の代わりにあなたが責められる事もあったのに、私が情けないばかりに、守れなくてごめんなさい」
逆に紫乃に謝られ、時子はクシャリと表情を歪める。
「……お嬢様は、ほんにそういうお方ですやんなぁ。葵様――これが、あなた様のご息女です。どうか、誇りに思うてあげておくれやす」
時子に言われ、葵は泣きそうな顔で頷いた。
「……ええ。どないな土地に種を撒かれようとも、美しい花は美しゅう咲くもんです」
その時、それまで事を静観していた隼人が、菖蒲に水を向けた。



