役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 全員が驚いてそちらを見ると、青い着物を着た妖艶な美女が立っていた。

 その美女は、紫乃(しの)と同じ榛色(はしばみいろ)の目をしている。

「トキ!?」

 紫乃は声を上げる。

 美女の後ろには、(みぎわ)家の使用人であるトキが控えていたからだ。

 彼女に「久しぶり」と言いたいが、そんな状況ではない。

「お久しぶりですね、(あおい)様」

 隼人(はやと)だけはまったく動じておらず、葵という美女に挨拶をする。

(……待って……? 葵……?)

 その名前をどこかで聞いた事があると考えていた時、高次(こうじ)が「うわぁあああぁっ!」と悲鳴を上げて立ちあがった。

「どっ、どうしてここにっ!」

 父の錯乱具合は尋常ではなく、どうやらこの葵という美女との間に何かがあったようだ。

 葵はそんな高次を一瞥し、意味ありげな目で(みぎわ)家の家族に視線を移してから、最後に紫乃を見て優しく笑った。

三千風(みちかぜ)侯爵閣下、わたくしの事、紹介してくれはりません?」

 美女は鮮やかな青に菊の模様が入った着物を纏い、結い上げた髪には鼈甲の簪を挿していた。

 燕谷(つばたに)は美女のために一人掛けのソファを示し、彼女は悠々と歩いてそこに腰かける。

「紫乃さん、彼女は西の青龍の侯爵、水流迫(つるざこ)葵様だ。……あなたの実の母でもある」

「…………は、…………い…………?」

 紫乃は紹介されて「はい」と頷こうとしたが、最後に思いも寄らない一言を付け加えられて固まった。

 それは菖蒲(あやめ)も同じで、彼女は目を剥いて紫乃と葵を見比べている。

 寧々(ねね)と菖蒲は、どちらかというと派手な顔立ちをしているのに対し、葵と紫乃の優しげな顔立ちはそっくりと言っていい。

 しかし、今までの言動からして、葵はおしとやかな女性とは言い切れないようだが。

 紹介された葵は紫乃にニッコリと笑いかけ、それから少し切なげな表情をした。