役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 紫乃(しの)が目を覚ますと、知らない天井が視界に入った。

『お嬢様、目が覚めましたか?』

 未知の場所にいて不安を抱いたものの、トキが側にいると知って紫乃は安堵の息を吐く。

『具合はどうだい?』

 男性の声がしてそちらを見ると、窓辺の椅子に座っていた青年が立ちあがったところだ。

(あ……、暗い雰囲気のお兄さん)

 思い出したが、今の彼は憑きものでも落ちたかのように、スッキリとした表情をしている。

『痛い所はない? 具合は? 医師に診てもらったけど、異能を使いすぎて気絶しているだけだと言われた』

 そう話しかけられ、起き上がった紫乃はハッと指輪を拾ってからの意識がない事に気づいた。

 ――また、異能を使ってしまったんだ……!

 同時に、父親に怒られるかもしれない怖れが襲ってくる。

『ごめんなさい……っ、もうしません!』

 紫乃はギュッと自分を抱き締め謝る。

 礼を言おうと思った隼人は、そんな彼女の態度を見て瞠目する。

『どうして謝るんだい? 私は君に多大な恩を感じている。感謝はすれど、謝られる事なんてないんだよ』

『……でも、お父様には二度と異能を使ってはいけないと言われました。人を傷つける、嘘つきで盗人の力だからと……』

 およそこの年齢の少女が言わない、人の心をえぐる酷い言葉を聞き、隼人(はやと)は父が言っていた事を理解した。

 ――この少女は、親から理不尽な目に遭わされている。

 そう悟った隼人は、泣きそうな顔でベッドの脇にしゃがみ、紫乃を見つめる。

『でも、私は君に救われた。それは真実だ』

 心からの言葉を向けたが、父親からの恐怖に支配されている紫乃は頑なだった。

『……っ、もう二度と異能を使わないって誓ったのに……っ。怒られちゃう……っ! こんな力、ないほうが良かったのに……っ! お願いします! 異能を使わなかった事にしてください! 忘れてください!』

 涙を流して必死に頼まれるほど、隼人はこの少女を哀れに思った。