役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「まず、きちんとご挨拶をしましょう。私は三千風(みちかぜ)家の当主、隼人(はやと)。このたび、(みぎわ)家の皆様につきましては、志摩より遠路はるばるお運びいただき、感謝申し上げます」

 仕切り直され、汀家の両親は気まずい表情をしているが、少し安心した顔で頭を下げた。

「最初に言っておきましょう。今の茶番についてですが、私は割と前から、彼女が汀紫乃(しの)さんだと分かっていました」

 茶番と言われ、菖蒲(あやめ)は柳眉を逆立てる。

「初めは驚きましたよ。汀〝菖蒲〟さんに求婚したと思えば、東京に着いたはずの彼女は行方不明になり、泊まっていた宿からは使用人が消え、持参金や花嫁道具もすべてなくなっていた」

「な……っ!?」

 それは初耳だったのか、高次(こうじ)寧々(ねね)は驚愕に目を見開く。

 龍之介(りゅうのすけ)は静かに溜め息をついたあと、妹――、菖蒲を一瞥した。

「汀菖蒲なる人物について、人を頼りに情報を集めれば、雨を呼ぶ異能の持ち主で、気位が高く、女学校での成績はいいものの、裏では気に入らない者の陰口を叩き、仲間たちと一緒に呼び出しては暴力を振るい、泥水を掛ける女性……」

 自慢の娘の知らない一面を聞かされ、両親はギョッとして菖蒲を見た。

「う……っ、嘘をつかないで!」

 菖蒲は赤面して怒鳴り、先ほど隼人に迫ったとは思えないほどの敵意を剥き出しにする。

「ご安心ください。すべて裏はとっていますし、部下が志摩まで言って証言もとらせています」

 隼人が言うと、燕谷(つばたに)がいくつかの封筒を彼に渡し、彼はその中から証拠とおぼしき書類や、人の記憶を焼き付けた念写(ねんしゃ)をテーブルの上に滑らせる。

 確固たる証拠を突きつけられた菖蒲は、「違うの!」と叫んで真っ青になり、必死に書類をかき集める。

 その時、(かずら)がワゴンを押して室内に入り、全員の前にお茶を出した。

「まぁ、とりあえず紅茶でもどうぞ。セイロンから取り寄せた物です」

 言われて、全員が気まずさを誤魔化すために、紅茶を口にした。

「私はずっと昔に伊勢へ赴き、その歳に紫乃さんに出会っていました」

「えっ?」

 まったく心当たりのない事を言われ、紫乃は声を漏らして隼人を見る。

 彼は小さく笑い、汀家のほうを見て話を続ける。