役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「結婚式は盛大なものになりますよ。基本的に、東と西の華族はあまり仲が良くないのですが、四大侯爵家の結婚式となれば、西からもお客様がいらっしゃいます。東京内でも大勢の方々がこの三千風(みちかぜ)邸を訪れ、晩餐会に出席されるでしょう」

 花鈴(かりん)が歌うように言い、うっとりと頬を染める。

「そうそう! 気が早いのか、もう西の水流迫(つるざこ)家の方々はこちらにいらしているのですよ」

「いつもより人手が必要になるため、他の華族様のお屋敷から、信頼できる使用人を借りる事になっています。最近、お屋敷に見慣れない顔が出入りしていますが、あれは下見でもあります」

「そうなのですね」

 感心して頷くと、和鼓(わこ)が誇らしげに言った。

「それに、社交界ではずっと独身を貫いてきた美貌の侯爵が、とうとう結婚されると聞き、皆さんその話で持ちきりだそうです。旦那様のお心を射止めた美女はどんな方か、当日を楽しみにされているそうですよ」

「そんな……っ、期待されても何も出せません……」

 弱り切って言うと、クスクス笑った花鈴かりんが紫乃(しの)の手を握った。

「大丈夫です。菖蒲(あやめ)さまはお美しい。色んな華族のお嬢様を見てきた私たちが言うのです。どうか自信を持ってください」

 彼女の言葉に、他の四人も頷く。

「……う、……美しいかはさておき、当日に失敗しないよう、一生懸命努めます」

 控えめに言ったのが彼女らしいと、五人のメイドたちは朗らかに笑った。



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 隼人(はやと)は洋館の一室にあるバルコニーに出て、痛む膝をさすりながら、火照った体を冷ましていた。

「……参ったな……。あんなに綺麗だとは……」

 所用があって部屋を訪れたのだが、まさか彼女が花嫁姿になっているとは思わなかった。

 いや、自分が準備を進めるように命じたのだが、まさかその現場に出くわすとは。

(……着替え中じゃなくて良かった……。音更(おとふけ)に殺される)

 真顔になってそう思い、それからぼんやりと白無垢を纏った菖蒲を思い出した。

「……綺麗だったな。……あの子が本当に私のお嫁さんになるのか」

 夢見心地に呟いた隼人は、そっと胸元を押さえてドキドキと高鳴っている心臓を確かめる。

「……やっと、…………やっとだ」

 彼は自分に言い聞かせ、グッと拳を握る。

 それから大きな溜め息をつき、バルコニーの欄干に手をついて、ゆっくりとその場にしゃがみ込んだ。

「……しかし、破壊力が過ぎる。…………可愛すぎるだろう。いや、美しい」

 隼人は目を閉じて、まな裏に焼き付いた未来の花嫁を思い出し、そっと切ない息を吐いた。



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