役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

(かずら)さんの火の異能などに比べると地味なものですが、人を相手にした時は十分に効果を発揮しますし、ほぼ敵知らずです。鬼の場合は拳に激しく波打った波動を纏わせ、霧散させます。……そうやって戦ってきたのですけれどね……。昨晩のあの者は強かったです。わたくしの異能がほぼ効かなかった。ですからあのような醜態を晒してしまい、菖蒲様を危険な目に遭わせてしまって、情けない想いで一杯です」

「そんな事ありません。守ってくださり、ありがとうございます」

 紫乃(しの)は視線を落とした音更(おとふけ)の手を両手でギュッと握り、彼女を見つめる。

 そしてブローチを読んだ時の事を思いだして言った。

「〝神無月の鴉〟の通常の構成員は、地下で会った者とは異なる、焦げ茶色っぽい仮面をつけていたと思います。あの者は白い仮面をつけていました。特別な力を持つリーダー格なのだとしたら、強かったとしても頷けます」

「……そうですね。ですが三千風(みちかぜ)家のメイド長として、晒してはならない醜態だったと思います」

 音更はいまだ自分の失態を気にしているようで、紫乃は彼女を励ましたい一心で言葉を紡ぐ。

「……過去を悔やんでも現実が変わる訳ではありません。考えるなら、これから同じような襲撃があった時、どう対応するか、同じ敵にまみえた時、どう戦うかを考えていきませんか?」

 そう言ったのは、過去に囚われていた葛を思い出したからだ。

 紫乃の言葉を聞いた音更は、ハッとしたあと一つ頷き、表情を引き締めた。

「そういたします。菖蒲(あやめ)様の金言、この胸の奥に深く刻みつけさせていただきます」

「い……っ、いえっ! そんな大層な事を言ったつもりではなくて……っ」

 慌てて否定するも、四人のメイドたちも「深いわぁ……」と頷き合っている。

「もう……。……なんか、恥ずかしくなってきました」

 困り果てた紫乃が赤くなった顔をパタパタと仰ぐと、全員が朗らかに笑った。

「失礼な質問だったら申し訳ないのですが、音更さんの眼鏡は伊達ですか?」

 葛の記憶の中で彼が思った事だが、紫乃も不思議に思ったので聞く事にした。

 尋ねると、彼女は軽く瞠目してから決まり悪そうな表情になる。

「気づいておいででしたか」

「注意して見ていた訳ではないのですが、音更さんはいつも側にいてくださって、お顔を見る機会も多かったです。その時に眼鏡特有の歪みがない事に気づきました」

 そう伝えると、彼女は複雑な表情で微笑む。