役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 メイドたちが言っていた通り、翌日庭に出てみると、あれだけの戦闘が行われていたのが嘘のように、前庭は美しい姿を取り戻していた。

 呆気にとられて見ていると、「見事なものでしょう」と声がし、振り向くと燕谷(つばたに)がニコニコして立っている。

「いやぁ、久しぶりに全力で補修しました。庭師の皆さんとも協力して……ですがね」

 悪戯っぽく言われ、紫乃(しの)は微笑み返す。

「素晴らしい力を持っておいでですね。昨晩の戦いも拝見しましたが、地の異能ってあんなふうにも使えるのですね」

「いやいや、お恥ずかしい限りです。現役時代の何分の一に衰えているやら……」

 そう言うものの、燕谷は嬉しそうだ。

「やだわぁ~……、燕谷さんったらお綺麗な菖蒲様に褒められて、デレデレして……」

 花鈴(かりん)が言い、他の三人もクスクス笑う。

「殿方ったら幾つになっても、現役時代の自慢話をしたがるんですもの」

 三琴(みこと)が言った言葉を聞いて、他のメイドたちは「そうよね~!」とかしましく笑った。





 そのあと、紫乃はメイドたちに付き添われて、音更(おとふけ)の見舞いとなる菓子を買いに銀座まで行った。

 煉瓦やガス灯のあるハイカラな街並みに目を奪われた紫乃は、あちこちを物珍しく見ていた。

 目当ての店に行くと、カステラやビスケットなどが並び、皆で決めて有名店のカステラを買う事にした。

 西洋風の建物の中、往来を馬車が行き来する。

 洋装に身を包んだ人もいれば、葛の記憶に出て来た丸尾のように、風流人を気取って着流しに帽子を被った男性もいた。

 このどこかに、葛を騙した丸尾が歩いているかもしれない。

 そう思うと穏やかな気持ちでいられないが、今はどうする事もできないので、大人しく目白にある屋敷に戻る事にした。