役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「あや…………、…………君はどうしてそんな端っこにいるんだ?」

 隼人(はやと)はてっきり、紫乃(しの)は布団の上で待っていると思っていたのか、一瞬室内を見回してから、壁に同化しそうな場所に正座している彼女を見て、深い溜め息をつく。

「おいで」

 手招きされ、紫乃は立ちあがると、足音を立てないように移動して布団の上に座る。

「君はいつも、動作が静かだね」

「……おしとやかであれと、教育を受けて参りましたので」

 紫乃は苦肉の策でそれっぽい嘘をつく。

 しかし隼人は赤茶色の目でジッと彼女を見つめ、その心を見透かしたように言う。

「そうだね。君はとてもおしとやかだ。……でも同時に、いつも何かに怯えていて、大きな音を立てるのを怖れているように思える」

 言い当てられ、紫乃はギクリと身を強張らせる。

 隼人は視線を落として体を緊張させた彼女を見て、しばし沈黙していたが、溜め息をつくと布団を捲り上げてその中に潜った。

「寝よう。お互い疲れる一日だったと思う」

「……はい」

 言われて、紫乃もモソリと布団に潜り込んだ。

 部屋の電気も消え、どちらからともなく、小さく息を吐く。

 婚前だし〝何か〟が起こるとは思っていないが、紫乃はトクトクと胸を高鳴らせて目を閉じる。

 ……と、微かな音を立てて、隼人が紫乃の手を握ってきた。

 ドキッとしてすぐ手を引っ込めようとしたが、彼は力強く握って離さない。

「君を娶ると言ってこの屋敷に招き、三日も経たずこのような目に遭わせてすまない」

「いいえ。どうしようもない事だったと思いますし」

 (かずら)は心の隙間を突かれて操られ、屋敷の結界を壊してしまった。

 それで鬼に襲われたのなら、仕方がないとしか言いようがない。

「こんな時だが、(みぎわ)家には連絡を入れておいた」

 そう言われ、紫乃は静かに息を吸った。

「予定通り、来月……、十月の大安吉日に私と君の結婚式を挙げる。その時には汀家の人々にも参列してほしいから、ぜひいらしてください、と」

「……はい」

 小さく返事をすると、隼人が静かに手に力を込めた。

「乗り気ではない返事だね。……不安かい?」