役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「最初から三千風(みちかぜ)家から(みぎわ)家に縁談があったとしても、私は東京についたあと姿をくらまし、裏オークションで売られてしまいました。それを助けてくださったのは隼人(はやと)様で、恐らく軍のツテや様々なものを使ってくださったのだと思っています。……信じられない大金も使わせてしまい、一生お仕えしても足りないほどだと思っています。……もしかしたら、売られて買われるまでの間に何者かにすり替わったと疑われても仕方ありませんし、忠誠心の高い皆様なら、三千風家に大損をさせてしまった私を快く思っていないのでは……、と思っていました」

 そこまで言った時、「菖蒲(あやめ)様」と小笛(こふえ)が口を挟んだ。

「お話の途中で申し訳ございません。……私たちは、菖蒲様の控えめな性格をとても好ましく思っています。可愛らしい方ですし、一目見た瞬間『この方なら大丈夫』と思えました。……正直、今まで旦那様に取り入ろうとした令嬢たちは、旦那様の容姿や家柄しか見ておらず、お屋敷を訪れた時もとても高飛車な態度をとっておられました。もしも旦那様が奥様にと決められた女性が、私たち使用人を顎で使うような方だったらどうしよう……と思っていました。ですから、私たちは菖蒲様の事が大好きですし、むしろもっと我が儘を言っていただきたいと思っています」

 小笛は一旦息を吐き、少し緊張した面持ちで続ける。

「ですが、菖蒲様は控えめすぎます。お優しいですし、私たちにもへりくだった態度をとられ、申し訳なくなるぐらいです。菖蒲様はとても素晴らしい女性ですし、鬼に取り憑かれた(かずら)さんを救うほどの素晴らしい異能の持ち主です。……なのに、菖蒲様は悲しいほどに自尊心が低い。……確かに、第三者的に見ればタイミング的に菖蒲様を疑う者はいるかもしれません。けれど私たちは菖蒲様が鬼を呼ぶなどあり得ないと分かっておりますし、大変失礼ながら、あなた様にそのような大それた事をして、耐えられる図太さがあるとも思っておりません」

 そう言われ、紫乃(しの)は少し赤面する。

「菖蒲様は、このお屋敷にとって大切な人物である葛さんを救ってくださった、大変なご恩のあるお方です。感謝はすれど、菖蒲様を疑ったり嫌うなどあり得ません。……どうかそれだけは、肝に銘じてください」

 滔滔(こんこん)と説明され、紫乃は溜め息をついて微笑んだ。

「分かりました。……あなた達を信じていないと言ったも同義ですものね。失礼な事を言ってすみません。……どうか、これからも宜しくお願いいたします」

 理解を得られたと知ったメイドたちは笑顔になり、安堵したように息を吐く。

 そして紫乃に浴衣を着付けると、隼人が向かったのとは別の場所にある風呂で彼女を清めた。

 大切な話は済んだからか、彼女たちはそれ以上先ほどの話を深掘りしなかった。