役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「……あとからじっくりと、その話を聞く必要がありそうだな」

「私がお話しできる事なら、なんでもいたします。……ですから、(かずら)さんへの処分はなしにしてください!」

 紫乃(しの)隼人(はやと)の目を見つめ、緊張と昂ぶった気持ちとで唇を震わせる。

 いまだかつて、こんなに強い意志を持って誰かに何かを訴えた事はなかった。

 だからこそ酷く身が強張り、今にも泣いてしまいそうになる。

 けれど大切な時に涙を見せ、泣き落としするなど卑怯者のする事だと思い、グッと目の奥に力を込め、睨むように隼人を凝視した。

 彼はしばし紫乃を見つめ返していたが、フッと柔らかく笑うとポンと彼女の肩を叩く。

「オドオドした女性と思っていたが、そういう顔もできるじゃないか」

 そのあと、隼人は紫乃の背中に手を回し、グイッと抱き上げつつ立ちあがった。

「葛はしばらく安静にしていろ。寝て食べて体力をつけ、元のように勤務できるようになったら、事情を説明しなさい」

「かしこまりました」

 主人に命令された執事は、深くこうべを垂れて返事をする。

燕谷(つばたに)は屋敷の結界の張り直しを急がせろ。破壊された結界具もあるだろうが、それは後日補充する。可能な限り結界術士を使って強化し直したあと、今日はもう休め」

「仰せのままに」

 そのまま、隼人は和室を出るとスタスタと廊下を歩いて行く。

「あの……っ、音更(おとふけ)さんは!?」

 囮になってくれた彼女の安否を気にすると、隼人は淡々と答える。

「それなりに酷い傷を負ったが、生きてるよ。今は我が家の腕利き医師の治療を受けている。彼女はそう簡単に倒れる人ではないから、安心していい。次に顔を合わせたら、守ってくれた礼を言いなさい」

「はい……っ」

 涙混じりに頷くと、隼人は悪戯っぽく付け加える。

「彼女は意外と甘い物が好きだから、見舞いには甘味をお勧めする」

「はい!」

 思わず笑顔になって頷いた時、フワフワと隼人のあとを追って飛んできたハクトと目が合った。

「……ハクト、ありがとうね。あなたのお陰で力をもらえたわ」

 お礼を言うと、ハクトは「ミャー」と鳴いて紫乃に顔をすり寄せた。



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