役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「あ……」

 紫乃(しの)の手には神楽鈴と榊があり、頭には花簪がある。

 白衣に緋袴を穿いたその出で立ちは、初めての経験ではない。

 紫乃は(みぎわ)家の令嬢として、他の令嬢たちと共に何回も神楽の練習をした過去がある。

「あなたならできます。……いいえ、あなただからできます」

 (かずら)の妻に言われ、紫乃は大きく息を吸うと「……はい」と頷いた。

 葛に目をやると、彼は目元を真っ赤にして泣き腫らしながらも、紫乃に向かって頷いてみせた。

「妻たちを送ってやってください。お願いいたします」

 葛に深く頭を下げられ、紫乃は目を閉じて精神を集中させる。

 右手に持った鈴を細やかに鳴らした時、どこからか太鼓や笛の音が聞こえてきた。

 紫乃は一礼してから、そのリズムに合わせ、鈴を鳴らしながら舞い始める。

 両手に持った鈴と榊とで周囲の空気を清めるように、大きく腕を回し、頭の位置を上下させないように足運びに気をつけ、回転する。

 ――善良なこの方々たちが、今度は幸せな人生を歩めますように。

 ――鬼に脅かされる事なく、愛する人のもとで笑顔溢れる毎日を過ごせますように。

 彼女が舞うたびに、白衣の袖や緋袴が空気を孕んでフワッと揺れる。

 寝そべったハクトは鈴の音をうっとりとして聞き、葛の妻たちは浄化され、光に包まれていく空間に、少しずつ身を溶かしていく。

 やがて紫乃が神楽を終えて一礼したあと、彼女たちは笑顔を残して光の中に消えていった。

「……ありがとう……」

 最後に呟いたのは、誰だっただろうか。

 舞いを奉納した紫乃は、その高揚感と鎮魂の悲しみとに目を閉じたまま、自分の意識がグッと上方へ引っ張り上げられるのを感じた。

 葛やハクトがどうなったのか確認する間もなく、彼女は凄まじい速度で上方へ引っ張り上げられ――――。



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「……っはぁっ!」

 紫乃は目を大きく見開いて息を吐く。