役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「……お前……っ、は……っ、…………名は!?」

 息子の名前を問うた父に、彼は笑顔で首を横に振る。

「産まれてないから、名前はないんだ。でもいつか必ず、お父ちゃんの側に生まれ変わって、役に立ちたい!」

 ハキハキと答えた息子の言葉を聞き、(かずら)は目を見開く。

「……まだ、……生まれ変わっていないのか?」

 そこまで言い、彼はハッと目を見開く。

「……俺が、……いつまでも未練を抱えていたから……」

 そんな彼の背中を、上官がトンと叩いた。

「ほれっ! ウジウジするな! 顔を上げて前を向け!」

 涙を流した葛は、小鼻をヒクつかせ、嗚咽交じりに言う。

「~~~~っ、お義父さん……っ!」

「ははっ、やっとお前から〝お義父さん〟って言ってもらえたな!」

 満足そうに笑った上官は、嗚咽する息子の背中を何度も叩き、優しい目で見つめる。

佐一(さいち)ちゃん、私たちはもう大丈夫だからね? これから私たちは生まれ変わって、〝誰か〟になる。その〝誰か〟を守ってね?」

 義母が優しく言い、葛はしゃくり上げながらしっかりと頷いた。

「…………っ、最後に、抱き締めさせてくれ……っ」

 葛はその場にしゃがみ込み、息子に向かって両腕を広げる。

「お父ちゃんっ!」

 着物を着た小さな子供は、パッと駆けて父親の腕の中に収まった。

「~~~~っ、ごめ……っ、ごめんなぁっ! 助けてやれなくてごめんなぁっ! 悪かった! 一人で生き延びてすまなかった!」

 男泣きする葛を、妻が優しく抱き締める。

「私たちは、一度たりともあなたを恨んだ事はありませんでしたよ。あなたが生きていて、本当に良かった」

「もう、過去を振り返るな。そこに俺たちはいない。これから俺たちは、未来のどこかに現れる。それを、今を生きているお前が守ってくれ」

「~~~~っ、はいっ!」

 葛は滂沱の涙を流しながらも、その目に強い決意を宿して頷いた。

 そのあと、妻はスッと立ちあがり、紫乃(しの)に向かって微笑みかけた。

「この人を縛っていた闇から断ち切ってくださり、ありがとうございます。巫女様のお力によって、私たちを〝送って〟くださいませんか?」

「巫女……? 送る……?」

 紫乃が目を瞬いた時、シャンッと鈴の音が鳴ったかと思うと、彼女は巫女装束に身を包んでいた。