役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

『お前はなんて事をしたんだっ! よそ様に暴力を振るうなんてっ!』

 酒臭い息を吐いた父親に思いきり殴られ、口の中に血が滲む。

 ――お前が言うなよ。

 (かずら)少年の心の中で、メラメラと怒りの火が燃える。

『全部っ! お前のっ! 教育がっ! 悪いからだろっ!』

 いつものように自分を庇ってくれた母を、父親は何度も叩き、蹴る。

『おがあざんをっ、いじめるなぁあっ!!』

 小さな弟が父親に突進し、両手を振り回すように殴る。

『うるせぇっ!』

 父親が怒鳴って弟の小さな体を思いきり蹴ったあと、彼は凄まじい音を立てて食器棚にぶつかり、沈黙した。

『――――っ!! ――――っ!!』

 母がぐったりとした弟の体を抱き、何度も名前を呼ぶ。

 したたかに叩かれて耳がキーンとなった葛少年は、のったりとした意識の中、母が何と叫んでいるのか聞き取れずにいた。

 ――俺の弟の名前、…………なんだっけ。

『あんたなんか死ねばいいっ!』

 泣き叫んだ母が父親に言い、度を超した怒りを持て余したクズの父親は、包丁を振り回し始めた。

 ――こいつ、死ねばいいのに。

 ――全員、燃えてなくなればいい。

 気がつけば、葛少年は全身から炎を燃え立たせ、その視線の先で火だるまになった父親が叫び、転がっていた。

 右目から血を流した母親は、動かなくなった弟を抱き締めたまま、呆然としてこちらを見ている。

 すべてが赤々と照らされたなか、葛少年の〝家族〟は終わりを迎えた。