役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 心配していた彼女は、玄関前で(かずら)の手を掴んだまま、執事と重なり合うように倒れていた。

 その表情は苦悶に歪み、フツフツと冷や汗を浮かべている。

(……異能を使っているか。……だとすれば、葛は異能を使わざるを得ない状況にあったと思っていい)

 二人が倒れているのを見ただけでそう判断した隼人(はやと)は、すぐに使用人たちに命令した。

「私がいいと言うまで、菖蒲(あやめ)さんと葛には触れるな。二人は私が異能を使って移動させる。和室で布団を敷いておけ」

「かしこまりました!」

 隼人の命令を聞き、涙ぐんで佇んでいた小笛(こふえ)和鼓(わこ)が屋敷の中に駆け込んでいった。

 彼は風の異能を使って二人の接触が解けないように浮かばせ、慎重に運んでいく。

「……音更(おとふけ)は?」

「探して参ります!」

 菖蒲の側にいなければならないメイド長の名を口に出すと、残る花鈴(かりん)三琴(みこと)が走っていった。

 屋敷の内部は荒れておらず、隼人は内心で安堵の息を吐く。

 彼は感情を荒立てないように心を落ち着かせながら、菖蒲と葛を異能で支えつつ、洋館を通り抜け、渡り廊下を経て奥の和風の屋敷へ入っていった。

 その頃には小笛と和鼓は二人分の布団を敷いて廊下に立っており、涙ぐんだ目で二人を見守る。

 菖蒲と葛は布団の上に横たえられたあと、腕が触れ合う距離感で、並んで寝かせられた。

「……菖蒲さんは葛を救うため、精神に関与する異能を使っている。彼女は触れたものに対して異能を発動させる。決して二人に触れるな」

 命令したあと、隼人は溜め息をついてその場に胡座をかいた。



 負傷者の確認が進むなか、地下で血まみれの音更が発見されたのは、少し経ったあとだった。



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