菖蒲とは浅からぬ因縁があり、多忙ゆえ頻繁に志摩には行けていなかったが、彼女の両親に顔を覚えてもらうために、可能な限り足を向けた。
隼人には菖蒲に惚れる理由があったし、彼女の為人を知っているつもりでいたから、かねてから妻にもらおうと思っていた。
だから彼女が屋敷に来た直後に、斯様な事件が起ころうとも、隼人はその二つを結びつけるつもりはなかった。
(むしろ、彼女が来たから屋敷が襲われたのだとしたら、菖蒲さんを狙っての事……と思ってもいい)
彼女は自分を『役立たず』だと言い、自分の異能を『動物と会話できる程度のもの』としか捉えていなかった。
だが精神や記憶に関与する力は、鍛えれば如何様にも応用できる。
汀家の両親とて、それを知らなかったはずがない。
彼らが何らかの理由で菖蒲を虐待していたなら、彼女の特殊な能力を開花させる事を望んでいなかったのは、たやすく想像できる。
下手をすれば菖蒲に操られ、言いなりにされる事も可能だからだ。
だから菖蒲は自分の異能を『使ってはいけない』と思い込んでいた。
そう思い込まされていた。
――自分は役立たずで、異能も何の使い道もない。
そのように思わせ、自分たちに刃向かう気力を削がなければならないほど、汀家の両親は彼女を怖れていたと言える。
逆を言えば、菖蒲は才能の原石で、それを悪用しようと考えつかない、純真無垢で心優しい女性だ。
(だから今回の襲撃は、嫌な意味では菖蒲さんに関係ない。十中八九、彼女を狙っての犯行だ。……すぐにでも屋敷に戻りたいが、今は使用人たちを信頼しなければ。今は現場を制圧し、人質の安全を確保してからでなければ、『中佐が私事を優先した』と思われかねない)
ゆっくりと息を吐いた隼人は、廃屋から離れた場所に拠点を構え、通信機器が映し出す光景を見守っている。
現場には部下たちが向かい、情報部隊がその異能でもってこちらに映像を送ってくれている。
緊張しながらどれだけ待っただろうか――。
《突撃!》
部隊長の指令と共に、部下たちが一斉に廃屋に向かって踏み込んだ。
各々、腰に差した刀に異能を纏わせて、烏天狗の面をつけた〝神無月の鴉〟を切り伏せていく。
《囚われていた深山伯爵令嬢、秋奈様を保護しました!》
部下の報告を聞き、隼人は溜め息をつき、周りにいた者たちも安堵して声を上げる。
しかし屋敷の問題が片付いた訳ではない隼人は、厳しい表情のまま響也に告げた。
「屋敷が襲われている。私は一足先に戻るから、お前は軍を引き連れて三千風邸まで来てくれ」
「えっ!?」
いきなり四大侯爵家が襲われていると聞いた響也は驚いて声を上げるが、その前に隼人は拠点から外に出ると、つむじ風と共に姿を消した。
上司の姿がフッと消えたのを見送った響也は、少しの間呆けていたが、屋敷には姉もいるのだと思い出し、表情を引き締めると拠点に戻った。
**
隼人には菖蒲に惚れる理由があったし、彼女の為人を知っているつもりでいたから、かねてから妻にもらおうと思っていた。
だから彼女が屋敷に来た直後に、斯様な事件が起ころうとも、隼人はその二つを結びつけるつもりはなかった。
(むしろ、彼女が来たから屋敷が襲われたのだとしたら、菖蒲さんを狙っての事……と思ってもいい)
彼女は自分を『役立たず』だと言い、自分の異能を『動物と会話できる程度のもの』としか捉えていなかった。
だが精神や記憶に関与する力は、鍛えれば如何様にも応用できる。
汀家の両親とて、それを知らなかったはずがない。
彼らが何らかの理由で菖蒲を虐待していたなら、彼女の特殊な能力を開花させる事を望んでいなかったのは、たやすく想像できる。
下手をすれば菖蒲に操られ、言いなりにされる事も可能だからだ。
だから菖蒲は自分の異能を『使ってはいけない』と思い込んでいた。
そう思い込まされていた。
――自分は役立たずで、異能も何の使い道もない。
そのように思わせ、自分たちに刃向かう気力を削がなければならないほど、汀家の両親は彼女を怖れていたと言える。
逆を言えば、菖蒲は才能の原石で、それを悪用しようと考えつかない、純真無垢で心優しい女性だ。
(だから今回の襲撃は、嫌な意味では菖蒲さんに関係ない。十中八九、彼女を狙っての犯行だ。……すぐにでも屋敷に戻りたいが、今は使用人たちを信頼しなければ。今は現場を制圧し、人質の安全を確保してからでなければ、『中佐が私事を優先した』と思われかねない)
ゆっくりと息を吐いた隼人は、廃屋から離れた場所に拠点を構え、通信機器が映し出す光景を見守っている。
現場には部下たちが向かい、情報部隊がその異能でもってこちらに映像を送ってくれている。
緊張しながらどれだけ待っただろうか――。
《突撃!》
部隊長の指令と共に、部下たちが一斉に廃屋に向かって踏み込んだ。
各々、腰に差した刀に異能を纏わせて、烏天狗の面をつけた〝神無月の鴉〟を切り伏せていく。
《囚われていた深山伯爵令嬢、秋奈様を保護しました!》
部下の報告を聞き、隼人は溜め息をつき、周りにいた者たちも安堵して声を上げる。
しかし屋敷の問題が片付いた訳ではない隼人は、厳しい表情のまま響也に告げた。
「屋敷が襲われている。私は一足先に戻るから、お前は軍を引き連れて三千風邸まで来てくれ」
「えっ!?」
いきなり四大侯爵家が襲われていると聞いた響也は驚いて声を上げるが、その前に隼人は拠点から外に出ると、つむじ風と共に姿を消した。
上司の姿がフッと消えたのを見送った響也は、少しの間呆けていたが、屋敷には姉もいるのだと思い出し、表情を引き締めると拠点に戻った。
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