十九時をまわった直後、命じてもいないのにハクトが現れ、隼人にだけ聞こえる声で吠えた。
「……分かっている」
廃屋に突入する直前、隼人は押し殺した声でハクトに答える。
屋敷の結界が破られた。
自分が当主になってからそのような事は一度もなかったのに、よりによって菖蒲を迎えた時になって――。
(彼女は大丈夫だろうか)
不思議と、菖蒲を疑う気持ちは微塵もなかった。
今まではこのような事は起こらなかったのに、菖蒲を迎えてすぐこうなったと知れば、誰かは彼女を疑うだろう。
しかし自己肯定感が低く、気弱な菖蒲を見ていると、彼女がそんな大それた事ができる人物には思えない。
白虎を使役している自分は、通常の異能者以上に勘が働くし、他人の悪意などにも敏感だ。
いわば、神の力を借りている身なので、五感が人並み以上に働き、第六感と呼ばれるものも発達していると言っていい。
二十七歳になるまで独り身を貫いていたのは、菖蒲を妻にすると決めていたからだ。
加えて社交界に赴けば、独身侯爵である自分に色目を使ってくる女性が多くいすぎて、辟易としていたからというのもある。
誰も彼も、地位ある夫を得て、莫大な財産で遊び暮らしたいという欲が透けて見える。
隼人ほどの術士になると、その欲が心から溢れ、悪臭となって襲ってくるほどだ。
彼には見え透いたお世辞は勿論、巧妙に隠した嘘も通用しない。
隼人は十八歳の時に三千風家の当主となったあと、あらゆる誘いを断り続け、一人前の当主となる事を優先して今日まで過ごしてきた。
『三千風隼人はどんな女の誘いも断る』『男色家ではないのか』と不名誉な噂を流されながらも、己の責務を果たすために仕事に身を入れてきたのだ。
自分の前に立ち塞がる者がいれば、その者が抱える後ろ暗いものを暴き、排除していった。
今や立派な侯爵となった隼人と対等に付き合う事ができるのは、嘘偽りを口にせず、かといって一筋縄ではいかない四大侯爵の仲間たちだけだ。
信頼できる部下もいるし、優秀な使用人たちの事も信じている。
すべて満たされ、何一つ不自由していない。
その時、満を持して菖蒲が十八歳になったと聞いたから、彼女を妻にもらおうと思って汀家に連絡をしたのだ。
「……分かっている」
廃屋に突入する直前、隼人は押し殺した声でハクトに答える。
屋敷の結界が破られた。
自分が当主になってからそのような事は一度もなかったのに、よりによって菖蒲を迎えた時になって――。
(彼女は大丈夫だろうか)
不思議と、菖蒲を疑う気持ちは微塵もなかった。
今まではこのような事は起こらなかったのに、菖蒲を迎えてすぐこうなったと知れば、誰かは彼女を疑うだろう。
しかし自己肯定感が低く、気弱な菖蒲を見ていると、彼女がそんな大それた事ができる人物には思えない。
白虎を使役している自分は、通常の異能者以上に勘が働くし、他人の悪意などにも敏感だ。
いわば、神の力を借りている身なので、五感が人並み以上に働き、第六感と呼ばれるものも発達していると言っていい。
二十七歳になるまで独り身を貫いていたのは、菖蒲を妻にすると決めていたからだ。
加えて社交界に赴けば、独身侯爵である自分に色目を使ってくる女性が多くいすぎて、辟易としていたからというのもある。
誰も彼も、地位ある夫を得て、莫大な財産で遊び暮らしたいという欲が透けて見える。
隼人ほどの術士になると、その欲が心から溢れ、悪臭となって襲ってくるほどだ。
彼には見え透いたお世辞は勿論、巧妙に隠した嘘も通用しない。
隼人は十八歳の時に三千風家の当主となったあと、あらゆる誘いを断り続け、一人前の当主となる事を優先して今日まで過ごしてきた。
『三千風隼人はどんな女の誘いも断る』『男色家ではないのか』と不名誉な噂を流されながらも、己の責務を果たすために仕事に身を入れてきたのだ。
自分の前に立ち塞がる者がいれば、その者が抱える後ろ暗いものを暴き、排除していった。
今や立派な侯爵となった隼人と対等に付き合う事ができるのは、嘘偽りを口にせず、かといって一筋縄ではいかない四大侯爵の仲間たちだけだ。
信頼できる部下もいるし、優秀な使用人たちの事も信じている。
すべて満たされ、何一つ不自由していない。
その時、満を持して菖蒲が十八歳になったと聞いたから、彼女を妻にもらおうと思って汀家に連絡をしたのだ。



