(皆さんが戦っているのに、どうして葛さんだけ屋敷の中にいるのかしら? 執事だから屋敷を守っている? ……でも今、扉の側で何をしていたの?)
葛は屋敷の中から外の戦いを見守っているというより、扉の側で何かしらの行為をしていたように見えた。
何をしていたのかと尋ねられても分からないが、彼は〝何か〟を探すように扉の周囲に手を這わせていたのだ。
(……この方はお屋敷の執事だし、……隼人様も音更さんも、皆さんも信頼している方だわ)
心の中で呟くも、本能の紫乃はどこか彼を拒絶している。
声を掛けようか逡巡していた時、葛がバッとこちらを振り向いた。
「あっ!」
その瞬間、彼の目が赤く光っているように思え、紫乃は声を上げた。
「菖蒲様、どうなさいましたか? 音更さんはどこへ?」
だが次の瞬間、葛は普通の目の色に戻り、何事もなかったかのように話しかけてくる。
(夜だし、外では火や水や雷、様々な属性の異能を使っての戦いが行われている。窓ガラスに反射して変なふうに見えただけだわ)
自分に言い聞かせた紫乃は、彼に音更の危機を訴える。
「音更さんが、地下で白い烏天狗の仮面を被った者と戦っています! 私は一人で逃げてきてしまったのですが、他の方に声を掛けて守ってもらってくださいとの事で……。ですが、どうしても彼女が心配なのです! お願いします! 他の方を呼んで音更さんを助けてください!」
「分かりました。一旦外へ出て、協力してくれる人がいないか探しましょう」
「はい!」
安堵した紫乃は、そのまま葛と共に激しい戦闘が行われている庭園へ出た。
**
外に出た瞬間、昼間に案内してもらった美しい庭園とは、別世界にいる感覚を覚えた。
そこかしこに、黒い炎のようにユラユラと形を揺らめかせる鬼がいる。
鬼は人の形をしている個体もあるし、獣のように四つ足の個体もいる上、よく分からない姿をしたもの、翼を持って空を飛んでいるものもいる。
それと戦っているのは、屋敷の使用人たちだ。
炎の鞭を振り回している者、氷の槍を飛ばす者、拳や蹴りと共に衝撃波を飛ばす者、戦い方はそれぞれだ。
鬼の階級はその大きさに比例すると言われているが、大きい個体でも大人三人で押さえ込める大きさなので、壱から肆の鬼と思っていいだろう。
しかし圧倒的に数が多く、美麗な庭園は鬼だらけになり、それらが放つ瘴気によって精神的な不調も覚えた。
鬼は見境なく人を襲って物を壊す上、その全身から瘴気を放つので、気の弱い者なら簡単に錯乱してしまう。
錯乱した者の心に小さな穢れの欠片が宿って育っていくと、ある日その者は、何らかのきっかけから鬼と化してしまう事もある。
そうなる他にも、体力のない者は瘴気を浴びて風邪に似た症状を起こして体調を崩し、悪化させて命を落とす事もある。
だから異能者は鬼が鬼の姿をしている間に祓い、憑かれた者を浄化しなければならない。
使用人たちが一丸となって戦っているのは、主人が住まう大切な屋敷を守るためでもあるし、白虎の封印を守るため、また、自分たちが守る三千風家から災厄を振りまく訳にはいかないという誇りもある。
華族たちに「騒ぎがあってもすぐに鎮圧できたのは、さすが三千風家の使用人がいてこそ」と言われなければならないし、屋敷に出入りする八百屋や魚屋、豆腐屋に呉服屋たちが安心して三千風家へ来られるようにしなければならない。
三千風邸だけでなく、他の屋敷にも腕利きの使用人が雇われ、時にその腕を競い合う大会まであるほどだ。
彼らは使用人であると共に、誇り高き大日本帝国の守人でもあるのだ。
その誇りでもって彼らが死に物狂いで戦っているものだから、庭園の有様は凄まじかった。
敷地の上空で雷雲が立ちこめて稲光が走り、広大な敷地内で炎の雨が注ぎ、雷が落ちたかと思えば地面が隆起する。
「凄い……」
紫乃はその様子を見て、呆然と立ち尽くす。
葛は屋敷の中から外の戦いを見守っているというより、扉の側で何かしらの行為をしていたように見えた。
何をしていたのかと尋ねられても分からないが、彼は〝何か〟を探すように扉の周囲に手を這わせていたのだ。
(……この方はお屋敷の執事だし、……隼人様も音更さんも、皆さんも信頼している方だわ)
心の中で呟くも、本能の紫乃はどこか彼を拒絶している。
声を掛けようか逡巡していた時、葛がバッとこちらを振り向いた。
「あっ!」
その瞬間、彼の目が赤く光っているように思え、紫乃は声を上げた。
「菖蒲様、どうなさいましたか? 音更さんはどこへ?」
だが次の瞬間、葛は普通の目の色に戻り、何事もなかったかのように話しかけてくる。
(夜だし、外では火や水や雷、様々な属性の異能を使っての戦いが行われている。窓ガラスに反射して変なふうに見えただけだわ)
自分に言い聞かせた紫乃は、彼に音更の危機を訴える。
「音更さんが、地下で白い烏天狗の仮面を被った者と戦っています! 私は一人で逃げてきてしまったのですが、他の方に声を掛けて守ってもらってくださいとの事で……。ですが、どうしても彼女が心配なのです! お願いします! 他の方を呼んで音更さんを助けてください!」
「分かりました。一旦外へ出て、協力してくれる人がいないか探しましょう」
「はい!」
安堵した紫乃は、そのまま葛と共に激しい戦闘が行われている庭園へ出た。
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外に出た瞬間、昼間に案内してもらった美しい庭園とは、別世界にいる感覚を覚えた。
そこかしこに、黒い炎のようにユラユラと形を揺らめかせる鬼がいる。
鬼は人の形をしている個体もあるし、獣のように四つ足の個体もいる上、よく分からない姿をしたもの、翼を持って空を飛んでいるものもいる。
それと戦っているのは、屋敷の使用人たちだ。
炎の鞭を振り回している者、氷の槍を飛ばす者、拳や蹴りと共に衝撃波を飛ばす者、戦い方はそれぞれだ。
鬼の階級はその大きさに比例すると言われているが、大きい個体でも大人三人で押さえ込める大きさなので、壱から肆の鬼と思っていいだろう。
しかし圧倒的に数が多く、美麗な庭園は鬼だらけになり、それらが放つ瘴気によって精神的な不調も覚えた。
鬼は見境なく人を襲って物を壊す上、その全身から瘴気を放つので、気の弱い者なら簡単に錯乱してしまう。
錯乱した者の心に小さな穢れの欠片が宿って育っていくと、ある日その者は、何らかのきっかけから鬼と化してしまう事もある。
そうなる他にも、体力のない者は瘴気を浴びて風邪に似た症状を起こして体調を崩し、悪化させて命を落とす事もある。
だから異能者は鬼が鬼の姿をしている間に祓い、憑かれた者を浄化しなければならない。
使用人たちが一丸となって戦っているのは、主人が住まう大切な屋敷を守るためでもあるし、白虎の封印を守るため、また、自分たちが守る三千風家から災厄を振りまく訳にはいかないという誇りもある。
華族たちに「騒ぎがあってもすぐに鎮圧できたのは、さすが三千風家の使用人がいてこそ」と言われなければならないし、屋敷に出入りする八百屋や魚屋、豆腐屋に呉服屋たちが安心して三千風家へ来られるようにしなければならない。
三千風邸だけでなく、他の屋敷にも腕利きの使用人が雇われ、時にその腕を競い合う大会まであるほどだ。
彼らは使用人であると共に、誇り高き大日本帝国の守人でもあるのだ。
その誇りでもって彼らが死に物狂いで戦っているものだから、庭園の有様は凄まじかった。
敷地の上空で雷雲が立ちこめて稲光が走り、広大な敷地内で炎の雨が注ぎ、雷が落ちたかと思えば地面が隆起する。
「凄い……」
紫乃はその様子を見て、呆然と立ち尽くす。



