役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 志摩にある(みぎわ)家では、ちょっとした騒ぎが起こっていた。

紫乃(しの)が宿から姿を消しただと!? 一体、何をやっているんだ、あいつは!」

 父親の高次(こうじ)が激怒し、妻の寧々(ねね)は乱暴な溜め息をつく。

 高次が握り締めているのは、紫乃と共に東京へ赴いた下男、亀吉(かめきち)がよこした手紙だ。

 異能を使った速達で届いたそれは、汀家に激震をもたらすのに十分な威力を持っていた。

「怖じ気づいて逃げたんじゃない?」

 菖蒲(あやめ)はフンと鼻で嗤い、髪を掻き上げる。

「……これでは、三千風(みちかぜ)家からの支援の話がなくなってしまうかもしれない」

 顔色を失った父親に、龍之介(りゅうのすけ)は冷淡に言う。

「我が家が金に困るようになったのも、もともとを言えば父上が原因なのでは?」

 そう言われ、高次はギッと息子を睨む。

()()()が我が家にたかるからですよ! 浅ましい!」

 憤慨したのは寧々で、彼女は美しい顔を苦々しく歪め、ここではないどこかを睨んでいた。

「……どういう事? 他の家からお金をたかられているの?」

 菖蒲が母に尋ねた時、彼女はハッとして表情を歪める。

「なんでもないわ。あなたには関係ない事だから、菖蒲はより良い結婚相手のために、花嫁修業を頑張りなさい」

 誤魔化すように言われても、菖蒲は納得していない表情をする。

「お兄様は何かご存知なの?」

 尋ねられた龍之介は、妹の質問を無視してスイッと歩いていった。

「もう……っ、何なの!?」

 苛立った声を上げた菖蒲は、バンッとテーブルを乱暴に叩いた。



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