役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 期限は三日と言っていたが、隼人(はやと)は誘拐された女性――深山(みやま)伯爵の令嬢秋奈(あきな)の両親の元にも部下を使わせていた。

 秋奈は、青龍を使役する侯爵家、五百木(いよき)家の令嬢、佳奈子(かなこ)の取り巻き的存在だ。

 秋奈は佳奈子を尊敬するあまり、容姿や持ち物まで彼女を真似るようになり、それが今回の不運な事件を引き起こしたと見ている。

 五百木侯爵は陸軍大佐で、今回の事件の解決は自分たちがやると言ってきかない。

 しかし〝神無月の鴉〟の事件を担当しているのは隼人であるため、彼は五百木侯爵と対立するように事件解決に向けて進めていた。

 だから、今回紫乃がブローチの残留思念を読んだ事は、五百木には教えないつもりでいる。

(猶予は三日。ブローチが発見されたのは、菖蒲(あやめ)さんを買った夜。それから三日と考えていいのか、あと二日か……)

 報告が来るまで隼人は本部で待つ事にし、いざとなったら風の力を使って現場まですぐに移動するつもりだ。

(加えて別の問題もある。(みぎわ)家は私が援助する代わりに菖蒲さんを嫁がせると約束した。なのになぜ、彼女が裏オークションに出品される流れになった? 宿に泊まっていたところ、襲われて売られたにしては抵抗がなさすぎた。三千風(みちかぜ)家へ嫁がせるというなら、送り届けるまで責任を持つべきだろう)

 汀家の当主、高次(こうじ)とは何度か会った事があり、親交があると言っていいが、信頼できる男とは言えない。

 痩身の彼は常にオドオドとした表情をし、妻の顔色を窺っていた。

 伊勢志摩まで赴いたのは数えるほどで、その場に娘たちはおらず、同席していたのは長男だけだった。

 いずれも能力者としては立派な力を持つ者ばかりと分かるのだが、どうにもその性根が気に食わなかった。

 妻はツンと澄まして東京人である自分を見下している感じがあったし、長男の龍之介(りゅうのすけ)は常に怒っている雰囲気があり、友好的とは言えなかった。

 あれでも〝家族〟に対して優しく振る舞う事もあるのか? と思ったが、嫁ぎに来た彼女の萎縮した様子を見ればそうは思えない。

(恐らく菖蒲さんは、日常的に虐待されていたと言っていい。体に痣はないと報告を受けたが、精神的なものであれば証拠は残らない。汀家は援助を必要とするぐらい、傾きかけた家ではあるが、曲がりなりにも伯爵家だ。鬼を討伐すれば国から相応の報奨金をもらえるはずだが、金はどこへ消えたのか……。支援する代わりに菖蒲さんを……というぐらい金に困っていたが、大切な娘をはした金で売るような真似をして、良心が痛まないのか……?)

 隼人は執務机に向かいながら、思考に耽る。

(菖蒲さんは『優秀な兄や妹に引け目を感じていた』と言っていた。以前、汀伯爵と話した時、『姉の菖蒲は雨を呼ぶ事ができる優秀な娘』と自慢していた。兄はその場にいるからいいとして、〝妹〟については何も言わなかった。下に八歳の息子がいると言っていたが、その子はまだ頭数に入れなくてもいいだろう)

 どうにも、家族ぐるみで汀家に騙されているような気がしてならない。

 菖蒲は嫌がっているが、電話か手紙かで汀家に問い合わせるべきだと感じている。

(しかし、やる事が多い)

 溜め息をついた時、念話で連絡を受け取った響也が「場所が分かったようです」と言い、隼人は勢いよく立ちあがった。



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