役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

 生真面目そうな音更(おとふけ)は、言われてみると腕利きの術士に思える。

 しかし自分とあまり年齢の変わらないメイドたちまで、戦える人だとは思わず驚いてしまった。

 そんな紫乃(しの)を見て、音更以外の四人のメイドたちはニコニコと笑っていた。

 彼女とメイドたちの相性は良さそうだと確認した隼人(はやと)は、席に戻って言う。

「私は月曜から土曜まで、九時までに登庁して夕方まで仕事をしている。緊急で仕事が入った時は、遅くなる事もある」

「はい」

 返事をした紫乃に、隼人が気遣わしげに声を掛けた。

(かずら)が嫌な想いをさせたね。彼は優秀な執事だが、少々融通が利かないところがある。その分信頼できるのだが、まだ心を許していない相手には接しづらく感じると思う。悪い人ではないから、許してあげてほしい」

「いえ、私のような者が現れて怪しく思うのは当然ですし、気にしておりません」

 そう答えると、隼人は「君も、後ろ暗いところがないなら、もう少し堂々としているといいよ」と言って笑った。

 そのあと、紫乃はずっと気になっていた事を口にする。

「あの、泊まっていた宿に、(みぎわ)家から一緒に来た亀吉(かめきち)という名前の下男や、その他の使用人がいるはずで、嫁入り道具もあるはずなのです」

「確かに、それらは確認しなければならないね」

 隼人は真面目な表情になって頷き、紫乃が泊まっていた宿の名前を聞く。

「分かった、宿のほうはこちらで確認しておこう。汀家の使用人がまだ逗留していたら、我が家に招いて話を聞く事にする」

「お手数お掛けします。宜しくお願いいたします」

 頭を下げると、また葛がボソッと口を挟んだ。

「主人が裏オークションで売られたというのに、現場に駆けつけもせず、抵抗せず敵に渡した使用人というのも、どうなのでしょうね」

「葛」

 今度は静かに隼人に窘められ、執事は「失礼いたしました」と頭を下げる。

「でも、彼の言う事も一理ある。使用人たちが売人たちに抵抗して戦ったなら、その騒ぎで君は目を覚ましていたはずだ。……けれど君は気がついたらすでに売人のもとにいて、そのまま問題なく商品として売られてしまった」

「……はい」

 紫乃は固い表情で頷く。

「……亀吉は仲良くしてくれていた使用人です。……彼に裏切られるなんて考えたくもないですが、……万が一の事も考えなければならないのは、承知しております」

 その答えを聞き、隼人は満足げに頷いた。

「これからすぐにでも、件の宿に使いをよこそう。結果が分かったら知らせるから、それまで待っていて」

「分かりました」

 それで朝食での会話は終わり、隼人は「ゆっくり過ごして」と言うと、葛に軍服のジャケットを着せられ、朝食室を出て行った。