役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「い……っ、いえ、そんな。私が悪いのです。すべて、私が……」

 とっさに自分を全否定する紫乃(しの)を見て、隼人(はやと)はまた溜め息をついた。

「なぜ君がそんなに卑屈になってしまったのか、(みぎわ)家に問い合わせる必要があるようだね」

「お……っ、おやめください……っ!」

 それだけは、と思った紫乃は、とっさに立ちあがって頭を深く下げた。

「……しょ、食が細かったのは、容姿に気を遣って食べたり食べなかったりしていたからです。卑屈になってしまったのは生まれ持っての性格で、優秀な兄や妹がいるから、勝手に引け目を感じて生きてきたからです……っ」

 とっさに口をついて出たのは、菖蒲(あやめ)を思い出しての事だった。

 彼女は気に入らない食べ物が出た時は、『お肌に悪い』『太る』と言って口にしなかった。

 龍之介(りゅうのすけ)や菖蒲に引け目を感じていたのは事実だし、隼人に嘘をついている訳ではない。

 そう思いながら言ったのだが、何を口にしても嘘ばかり並べ立てているように思えて、良心が痛んだ。

 その時、朝食室に控えていた三十代後半の執事が口を開いた。

「失礼ながら、私の目には菖蒲様は隠し事ばかりしているように見えます。……旦那様、本当にこの方を奥様として迎えて宜しいのですか?」

 実に的確な事を言われ、紫乃はギクリと身を強張らせる。

 オドオドと執事を見れば、彼は疑い深そうに彼女を見つめていた。

 少しの嘘や誤魔化しも通用しない鋭い目で見られ、紫乃はパッと俯くと癖で腕輪に触る。

 隼人はしばらくのあいだ紫乃を見つめていたが、静かに息を吐くと「まぁ、いいだろう」と彼女の肩に手を置く。

「君を困らせたかった訳ではない。健康面が心配だから、今までどう過ごしていたのか気になったんだ。もしも日常的に栄養状態が宜しくなかったなら、今後の成長や発育、月のものにも影響が出る。……君の異能もいつ必要になるか分からないし、いざという時に体力がなくて肝心な事を視られなかった、という事を避けたい」

「……はい」

 彼の言いたい事を理解した紫乃は、コクンと頷く。

「……君は私の婚約者だというのに、裏オークションに売られていた。犯人も捕まえなければならないし、事が落ち着いたら汀家には説明せざるを得ない。それは受け入れてほしい」

 そう言われては承諾するしかなく、紫乃は暗い面持ちで頷いた。

「ひとまず、今日は屋敷で休んでほしい。昨晩、無理をして異能を使わせてしまったし、疲れているだろう。旅の疲れもある上に、裏オークションの件で精神的にも疲弊していておかしくない。十分に休んで、もし余裕があれば音更(おとふけ)にでも屋敷の中や、庭を案内してもらえばいい」

 隼人が言うと、室内に控えていたメイド長が一歩前に進み出て黙礼した。

「先に言っておくが、音更や君の身の回りの世話をするメイドたちは、それなりの腕を持つ術士だ。私はこれから出かけるが、万が一の事があっても彼女たちが君を守る。加えて執事や警備員、その他の使用人たちも、えり抜かれた術士だから安心してほしい」

「そ、そうなのですか?」

 思いも寄らない事を聞いた紫乃は、目を見開いてメイドたちを見る。