驚いた紫乃は目を瞬かせて顔を上げるが、またハクトにペロペロと顔を舐められて笑ってしまう。
「……そういう意味でも、私は君を信頼している。四大聖獣である白虎が、ここまで懐く人は珍しいからね」
「……そうなのですか?」
紫乃はハクトをぬいぐるみのように抱き締め、そのフカフカの毛並みを撫でてやりながら呟く。
彼女の腕の中に収まった小さな白虎は、満足げに彼女に顔をすり寄せ、肩に顎をのせている。
「ハクト……とは、この子の名前ですか?」
「そうだよ。白虎は白虎で、他に代わりはいない。だが仕える主が変わると、主によってつけられる名前が変わる。父は私を溺愛していて、白虎にまでハヤトという名前をつけていたから、部下が混乱していたな」
彼が懐かしむように言った言葉を聞き、紫乃は思わず微笑む。
隼人は先ほどより緊張が解けた紫乃を見て小さく笑い、父の思い出話をしてくれた。
「父は誇り高い軍人で、私の憧れだった。母は優しくたおやかな女性で、温厚な人柄ながら、社交界でも発言力があり周囲に一目置かれていた。……しかし二人とも、九年前に捌の鬼が大暴れした大戦が起こる前に、暗殺されてしまった」
「……それは……、お気の毒に……」
捌の鬼による大災害は志摩にいた時に紫乃も聞き及んでいたが、鬼が起こす災害で軍人として散るのと、暗殺されるのとではまた違った悲しみがあるだろう。
「当時の私は両親を喪った悲しみで己を失いかけていたが、……救ってくれた人がいたから、その人の恩義に恥じない生き方をしたいと思ったんだ」
言いながら、隼人は左手の小指に嵌めている金色の指輪をさする。
指輪には三千風家の家紋――三つのつむじ風が渦巻いている模様が刻まれ、きっと彼の父から譲り受けた物なのだろう。
隼人が両親を語る声には、尊敬と哀惜が混じっている。
そう想えるほど、素晴らしい人物だったのだろう。
それに引き換え自分の両親は……、と思いかけ、すぐにやめた。
両親は龍之介や菖蒲、弟に対しては優しく接しているから、そうされない自分に問題があるのだ。
(何も持っていない私は、ここで価値を示して生きていくしかないのだわ)
紫乃は隼人の話を聞きながら、自分自身に深く言い聞かせた。
隼人は「朝から暗い話をしたね」と言って立ち上がり、カーテンを開くと気持ちを切り替えるように言った。
「昨晩は無理をさせてしまったが、体調は大丈夫かい? もし問題ないなら、これから共に朝食をとらないか?」
「……はい、いただきます」
食事と言われ、紫乃は思い出したように空腹を覚える。
「メイドたちが身支度を手伝ってくれるから、それが終わったら朝食室へおいで」
言ったあと、隼人はスタスタと出入り口に向かう。
が、ハクトはいまだに紫乃に懐いたままだ。
「あ……っ、あのっ、ハクトが……っ」
慌てて隼人に声を掛けると、彼はドアの手前で立ち止まり、振り向きざまに笑った。
「緊急事態でない限り、彼がどう行動するかは自由だ。ハクトは君が気に入ったようだし、邪魔でなければ側にいさせてやってくれ」
「は……、はぁ……」
首元にグリグリと顔を寄せてくるハクトを撫でながら、紫乃は呆然として頷き、隼人が去って行くのを見送った。
「……そういう意味でも、私は君を信頼している。四大聖獣である白虎が、ここまで懐く人は珍しいからね」
「……そうなのですか?」
紫乃はハクトをぬいぐるみのように抱き締め、そのフカフカの毛並みを撫でてやりながら呟く。
彼女の腕の中に収まった小さな白虎は、満足げに彼女に顔をすり寄せ、肩に顎をのせている。
「ハクト……とは、この子の名前ですか?」
「そうだよ。白虎は白虎で、他に代わりはいない。だが仕える主が変わると、主によってつけられる名前が変わる。父は私を溺愛していて、白虎にまでハヤトという名前をつけていたから、部下が混乱していたな」
彼が懐かしむように言った言葉を聞き、紫乃は思わず微笑む。
隼人は先ほどより緊張が解けた紫乃を見て小さく笑い、父の思い出話をしてくれた。
「父は誇り高い軍人で、私の憧れだった。母は優しくたおやかな女性で、温厚な人柄ながら、社交界でも発言力があり周囲に一目置かれていた。……しかし二人とも、九年前に捌の鬼が大暴れした大戦が起こる前に、暗殺されてしまった」
「……それは……、お気の毒に……」
捌の鬼による大災害は志摩にいた時に紫乃も聞き及んでいたが、鬼が起こす災害で軍人として散るのと、暗殺されるのとではまた違った悲しみがあるだろう。
「当時の私は両親を喪った悲しみで己を失いかけていたが、……救ってくれた人がいたから、その人の恩義に恥じない生き方をしたいと思ったんだ」
言いながら、隼人は左手の小指に嵌めている金色の指輪をさする。
指輪には三千風家の家紋――三つのつむじ風が渦巻いている模様が刻まれ、きっと彼の父から譲り受けた物なのだろう。
隼人が両親を語る声には、尊敬と哀惜が混じっている。
そう想えるほど、素晴らしい人物だったのだろう。
それに引き換え自分の両親は……、と思いかけ、すぐにやめた。
両親は龍之介や菖蒲、弟に対しては優しく接しているから、そうされない自分に問題があるのだ。
(何も持っていない私は、ここで価値を示して生きていくしかないのだわ)
紫乃は隼人の話を聞きながら、自分自身に深く言い聞かせた。
隼人は「朝から暗い話をしたね」と言って立ち上がり、カーテンを開くと気持ちを切り替えるように言った。
「昨晩は無理をさせてしまったが、体調は大丈夫かい? もし問題ないなら、これから共に朝食をとらないか?」
「……はい、いただきます」
食事と言われ、紫乃は思い出したように空腹を覚える。
「メイドたちが身支度を手伝ってくれるから、それが終わったら朝食室へおいで」
言ったあと、隼人はスタスタと出入り口に向かう。
が、ハクトはいまだに紫乃に懐いたままだ。
「あ……っ、あのっ、ハクトが……っ」
慌てて隼人に声を掛けると、彼はドアの手前で立ち止まり、振り向きざまに笑った。
「緊急事態でない限り、彼がどう行動するかは自由だ。ハクトは君が気に入ったようだし、邪魔でなければ側にいさせてやってくれ」
「は……、はぁ……」
首元にグリグリと顔を寄せてくるハクトを撫でながら、紫乃は呆然として頷き、隼人が去って行くのを見送った。
