ブローチは男のズボンのポケットに入れられており、周囲の景色は見えない。
やがて男は飲み屋街に着いたらしく、喧噪のなか女給に熱燗と料理を頼んでいた。
必要か分からないが、紫乃は男が注文した物などを逐一隼人に報告していく。
ずっと目を閉じたままで、現実の時間がどれだけ経ったか分からない。
しかし今の自分がすべきなのは、隼人にブローチの記憶を伝える事だ。
頭が痛んで眩暈もしてくるが、紫乃は隼人の手をギュッと握り、ブローチの記憶を読み続けた。
そのうち男は腹が満たされ、酔っぱらっていい気分になったのか、ポケットからブローチを出して女給に見せつけた。
【どうだ、いい品だろう】
【まぁ、素敵】
女給は顔立ちの整った女性で、黒髪にパーマネントをあてている。
唇が肉厚でぽってりとし、目の下に泣き黒子があるからか、男好きのする顔つきだ。
彼女は赤と灰色の縦縞模様の着物の上に、白いエプロンをつけている。
年の頃は二十代後半で、家庭を持って落ち着いているというより、さらなる野心を秘めている女性に思えた。
男は女給に見せつけるようにブローチを転がし、紫乃は赤い視界の中から飲み屋の内装を確認する。
どことなく薄暗い店は天井から裸電球が下がっており、中折れ帽を被った男たちが酒を片手に、ボソボソと小さな声で言わなければならない話をしている。
活気があって酔っぱらった者が豪快に笑い声を上げる雰囲気ではなく、まっとうに働いている者がこの店の暖簾をくぐったなら、普通ではない雰囲気を感じてすぐ店を出てしまうような感じだ。
紫乃はギュッと隼人の手を握りながら、店の中で目に付いたものをすべて口にしていく。
ルビーから伝わる音は直接脳内に響いてくるが、それと重なって現実の音も鼓膜を震わせて聞こえてくる。
隼人は紫乃の手を握りながら、もう片方の手で常に走り書きをしている。
だからこそ、少しでも彼の役に立ち、さらわれた女性を助けたいという気持ちに駆られた。
【あたいにくれるの?】
女給は鼻に掛かった声を出し、男にしなだれかかる。
【さて、どうだろうな。お前がこの宝石に見合ういい女なら別だが】
【えー? んふふ……】
男と女給はしばらくそんなやり取りをし、男はブローチを見せびらかすだけ見せびらかし、またポケットに入れると会計を済ませて店を出た。
男はかなり酔っぱらっているようで、鼻歌を歌いながら歩いている。
深酒をしたようで、その足音もリズムが崩れていた。
――と。
【なんだお前ら?】
男が立ち止まってそう言ったあと、何者かに襲われたのか、くぐもった声や荒い呼吸、暴行の音がする。
やがて男は飲み屋街に着いたらしく、喧噪のなか女給に熱燗と料理を頼んでいた。
必要か分からないが、紫乃は男が注文した物などを逐一隼人に報告していく。
ずっと目を閉じたままで、現実の時間がどれだけ経ったか分からない。
しかし今の自分がすべきなのは、隼人にブローチの記憶を伝える事だ。
頭が痛んで眩暈もしてくるが、紫乃は隼人の手をギュッと握り、ブローチの記憶を読み続けた。
そのうち男は腹が満たされ、酔っぱらっていい気分になったのか、ポケットからブローチを出して女給に見せつけた。
【どうだ、いい品だろう】
【まぁ、素敵】
女給は顔立ちの整った女性で、黒髪にパーマネントをあてている。
唇が肉厚でぽってりとし、目の下に泣き黒子があるからか、男好きのする顔つきだ。
彼女は赤と灰色の縦縞模様の着物の上に、白いエプロンをつけている。
年の頃は二十代後半で、家庭を持って落ち着いているというより、さらなる野心を秘めている女性に思えた。
男は女給に見せつけるようにブローチを転がし、紫乃は赤い視界の中から飲み屋の内装を確認する。
どことなく薄暗い店は天井から裸電球が下がっており、中折れ帽を被った男たちが酒を片手に、ボソボソと小さな声で言わなければならない話をしている。
活気があって酔っぱらった者が豪快に笑い声を上げる雰囲気ではなく、まっとうに働いている者がこの店の暖簾をくぐったなら、普通ではない雰囲気を感じてすぐ店を出てしまうような感じだ。
紫乃はギュッと隼人の手を握りながら、店の中で目に付いたものをすべて口にしていく。
ルビーから伝わる音は直接脳内に響いてくるが、それと重なって現実の音も鼓膜を震わせて聞こえてくる。
隼人は紫乃の手を握りながら、もう片方の手で常に走り書きをしている。
だからこそ、少しでも彼の役に立ち、さらわれた女性を助けたいという気持ちに駆られた。
【あたいにくれるの?】
女給は鼻に掛かった声を出し、男にしなだれかかる。
【さて、どうだろうな。お前がこの宝石に見合ういい女なら別だが】
【えー? んふふ……】
男と女給はしばらくそんなやり取りをし、男はブローチを見せびらかすだけ見せびらかし、またポケットに入れると会計を済ませて店を出た。
男はかなり酔っぱらっているようで、鼻歌を歌いながら歩いている。
深酒をしたようで、その足音もリズムが崩れていた。
――と。
【なんだお前ら?】
男が立ち止まってそう言ったあと、何者かに襲われたのか、くぐもった声や荒い呼吸、暴行の音がする。
