役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「建物に続く飛び石……。周りに砂利はなく、剥き出しの土です。竹も生えています。下草は整えられておらず、長らく人が住んでいない場所に思えます」

「確認するが、君に見えているのは連続した時間か? 映画のように場面が一度カットされ、別の場面に繋がるという見え方ではない?」

「はい。すでに起こった出来事をもう一度辿っている形ではありますが、〝彼女〟が味わった体験をそのまま〝視て〟います」

 目を瞑ったまま応えると、隼人(はやと)は空いた片手でサラサラと何か書いているようだった。

「中へ入ります。日本家屋らしく、引き戸です。上がり框に上がって中へ……。荒れた印象の和室。畳が一部腐った所があります。……あっ」

 その時、女性が床の上に投げ出された。

 女性は再びもがこうとするも、手足を縛れていて叶わない。

【侯爵からの返事を待つぞ。期限は三日だ】

【もし応答がなければ?】

 その問いのあと、もう一人の男は少し間を置いてから冷ややかに言った。

【殺すしかあるまい】

 彼らの会話を聞き、女性はビクッと体を震わせる。

【おい、さっきから気になっていたんだが、このブローチ、いい品だな。高く売れるぞ】

 男の手が迫ったかと思うと、ブチッとブローチがもぎ取られた。

「ブローチが……っ」

「盗られたんだろう? 分かっている。その隠れ家から出たあとの行動も、視られるかい?」

「はい」

 紫乃(しの)は額に汗を浮かべ、頷く。

 動物と会話する時だって、こんなに長時間異能を使い続けた事はない。

 まして物の記憶を読むという初めての事をし、勝手の違いから疲れを覚えていない訳がない。

 しかし最初こそ、隼人の役に立たなければ追い出されるという想いでこの行為を始めたが、今はこの女性を助けたい一心で意識を集中し続けていた。

 男たちはしばらく隠れ家で女性を前にあれこれ言っていたが、侯爵家から反応があるまで待つようだった。

 そしてブローチを手にした男は外に出ると、面と黒装束を取って歩き始めた。

「……ブローチを持っている男性は、茶色いジャケットにチェックのベスト……、黒いズボンです。革靴は少しくたびれたような感じ……。手には皺が多くて、少し年齢が上の人に思えます」

「分かった」

 そのあと男はどこまでも歩いて行き、途中で乗合馬車に乗って夜の道を進んでいく。