役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「私がついているから怖くない。続けて」

「は、はい」

 彼の美貌に圧倒されて赤面するも、紫乃(しの)は気を引き締め、再度ルビーの記憶を読み取る事に集中した。

 女性は烏天狗(からすてんぐ)の面をつけた男たちに、引きずられるように連れられ、別の馬車に押し込まれる。

 それを隼人(はやと)に伝えると、「どこに向かったか分かるかい?」と尋ねられる。

 紫乃は相変わらず目を閉じたまま、脳内に伝わってくる映像を自分の体験のように〝視て〟いる。

 慣れない事をして恐ろしいが、震える手を隼人がしっかり握ってくれるので、そのぬくもりに勇気をもらって続行できた。

 馬車に押し込まれた女性は悲鳴を上げて暴れていたが、やがて猿轡を噛まされて手足を縛められ、抵抗できなくなる。

 女性は目隠しもされたようだったが、ブローチから見える景色は変わらない。

「……馬車のカーテンが閉められているので、外の景色は見えません」

「続けて」

 女性が移動している間、紫乃はただ待つしかできなかったが、隼人は急かす事なく黙っていてくれた。

【これで侯爵家は動くと思うか?】

【娘がさらわれたなら、言う事を聞かざるを得ないだろう】

 男たちが話しているのを聞き、紫乃はそれを隼人に伝える。

「……このブローチの持ち主は、侯爵令嬢ですか?」

「いいや。被害者は侯爵令嬢の友人の、伯爵令嬢だ」

 隼人の言葉を聞き、紫乃はハッとする。

(……じゃあ、それが分かったあと、この女性は……? ブローチが今ここにあるという事は……?)

 動揺したと同時に、ブローチから伝わってくる映像が揺らぐ。

菖蒲(あやめ)さん、しっかりして。今は君だけが頼りなんだ」

 それを察したように隼人に言われ、気持ちを持ち直した紫乃はギュッと彼の手を握った。

 やがて馬車は停まり、女性は男の一人に担がれて外へ出る。

 彼女の体が下向きになったからか、ブローチの視点では地面しか見えない。

「……夜で暗くて分かりづらいですが、入り口近くにツツジがあります。季節外で花はついていませんが、枝振りで分かります」

「結構」

 隼人は満足げに言い、紫乃はさらに〝視えた〟ものを口にしていく。