役立たずの身代わり令嬢と、孤独な白虎の侯爵

「温まったかい?」

「お陰様で」

 ペコリと頭を下げると、隼人(はやと)が尋ねてくる。

菖蒲(あやめ)さんは、慈雨を呼ぶ異能を持っていると言ったね」

 そう尋ねられ、紫乃(しの)は顔色を失う。

(どうしよう。顔を知られていないから誤魔化せると思っていたけれど、異能は誤魔化せない)

 紫乃は息を詰まらせ、必死に考える。

三千風(みちかぜ)家に嫁入りするにあたって、異能を見せてみろなんて言われたら、一発で偽物だと分かってしまう。なら……)

 紫乃はゴクリと唾を飲んで乾いた喉を湿らせ、ぎこちなく笑った。

「……それは妹の異能なのです。どこかで情報が違えてしまったのだと思います」

「……そう、か……」

 隼人は目を丸くして驚いたあと、納得したように何度か頷く。

「では、改めて尋ねよう。菖蒲さんの異能は?」

 尋ねられ、紫乃は劣等感に駆られながら答える。

「……動物の言葉を理解します」

「そうか、便利だね。ならカラスや雀がなんと話しているか分かるのかい?」

 役に立たない異能だと知れば見放されるかと思っていたが、隼人は興味深そうに質問してきた。

「……いいえ。動物に触れた場合にだけ、考えている事が分かります」

「ふぅん……。その力は、生きている物にしか発動しないのかい?」

「え?」

 意外な事を聞かれ、紫乃は目を瞬かせる。

「私の知り合いにも動物や虫の言葉を理解する者がいるが、その者は特に触れなくても鳥や虫がなんと話しているか分かるんだ。だから、菖蒲さんとその者の異能は、厳密には違うのだと思って」

 確かに無条件に生き物の言葉を理解する異能があるなら、対象に触れなくてはならない自分の能力は中途半端だ。

(やはり、私は落ちこぼれなのだわ……)

 ズン……と胸の奥に重たい石を投げ込まれたような気持ちになっていた時、隼人が再度尋ねてきた。

「物に触れて、物の記憶を辿った事はあるかい?」